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研究を社会と地域に還元

NPO法人オレンジAKITA
代表 中村 順子 さん

大学の知識をビジネスに活用

今回は秋田大学発の法人を立ち上げられた経緯、法人に対する思いなどを中心に、オレンジAKITAの取り組みについてインタビューしました。

NPO法人オレンジAKITA

代表 中村 順子 さん

  • 聖路加看護大学 衛生看護学部 1979年03月卒業
  • 聖路加看護大学 看護学研究科 修士課程 2008年03月修了
  • 青森県立保健大学 健康科学研究科 看護学専攻 博士課程 2011年03月修了
  • 秋田大学大学院医学系研究科附属地域包括ケア・介護予防研修センター長
  • 秋田大学 大学院医学系研究科 保健学専攻 地域生活支援看護学講座 教授

オレンジAKITAの立ち上げの経緯について教えて頂けますか。

 平成28年に「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)」の事業のひとつとして始めたことが、オレンジAKITAやチームオレンジ立ち上げのきっかけです。私が所属したテーマは、地域の在宅ケアのネットワークづくりということで、横手市山内地区を中心に訪問看護などを行ってきました。また、COC+事業では、地元への就職率を上げるという1つの数字目標が示されるようになりました。
 現在オレンジAKITAが行っているコグニサイズは、愛知県の国立長寿医療研究センター(以下:長寿研)が考案したコグニション(認知課題)と、エクササイズ(運動課題)を組み合わせた運動法です。高齢化率No.1の秋田県でも、認知症予防の為の様々な活動の展開が始まったのです。
 初めに藤田智恵助教が長寿研で講習を受け、コグニサイズの認定指導者になりました。その後秋田大学はコグニサイズ促進協力施設に認定され、次々に先生方が長寿研で講習を受け、コグニサイズの認定指導者がとても増えたんです。そして地域貢献の活動を進めるひとつの切り口として、当時、地域包括ケア・介護予防研修センター長だった私と、コグニサイズ普及の認定指導者の資格を取得した先生方を中心に、「チームオレンジ」という任意団体を立ち上げました。

コグニサイズを取り入れようと思ったきっかけや経緯は何でしょうか。

 チームオレンジでは、コグニサイズを中心とした普及活動を行いました。COC+事業の中にも位置づけられていましたので、最初は東成瀬村、潟上市、男鹿市で、長寿研のプログラム通り半年間毎週続けました。
 コグニサイズを続けることで、運動機能、認知機能の固定化が少し抑制されることは、長寿研でもエビデンスが出ていましたし、私達の取り組みの中でも運動機能、認知機能が少し回復するという結果が得られました。ですが、私がそのときに着目したのは、私たちの半年の訪問指導が終わっても、任意のグループでコグニサイズを続けてくれたことです。
 皆さん最初は長寿研のプログラム通りにコグニサイズを行っていたのですが、徐々に自分たちの好きな運動を取り入れてみたり、音楽を使ってみたりと自由度が高まっていきました。コグニサイズという媒体を利用して、集まって運動をして、お喋りをして、帰りに何か食べて、そうした集まりを通して運動機能、認知機能が回復していくというのは、まさにフレイル(虚弱)予防だと思ったんです。

どのような運動法なのでしょうか。

 コグニサイズの特徴は、有酸素運動と頭を使う運動を組み合わせることです。
例えば「3のときに手を振って」などと言うと、皆さん間違えてしまいますよね。間違うと皆で笑い合ったりします。「間違えたら次はどうするか」を考えるときに、脳が活発に活動すると言われています。コグニサイズは間違わないことが目的ではなく、「間違うことを恐れず、間違って楽しもう、多いに笑い合おう」という考えがとても良いと思ったんです。
 今、ご当地体操のような介護予防体操はたくさん生まれているんです。ですが私は「この目的のためにこの体操」、「認知症予防ならこの体操」と分けるのではなく、全てはフレイル予防につながるので、1つにできるといいと考えたんです。
 フレイルサイクルに入ると、あまり食べなくなる、家にばかりいる、口腔機能が落ち、タンパク質を摂らない、筋肉が落ちて外出しなくなる、人と会わず鬱的になる、体が弱くなるといった悪循環に陥ってしまいます。だからこそ「人と会う、食べる、体を動かす」ことはとても大事です。さらに、そこに笑いもプラスされると、運動して帰るだけではなく、間違うことで笑い合い、お喋りして、 皆で持ちよったものを食べたりできたらとても良い活動になると思ったんです。

コグニサイズとは少し違ったものに変わっていったのですね。

  

 コグニサイズの名称を使うと、コグニサイズのフレームのまま実行しなければなりません。ですので、我々はコグニサイズという名称を使わず、秋田独自のものをつくれないかと思ったんです。長寿研にも確認をとり、「コグニサイズ」という名称を使わなければ、中身をアレンジして、オリジナルな運動法をつくっても大丈夫ということがわかりました。
 そこで「フレフレ!コグニ」という名前をつけて、認知症予防だけではなく、フレイル予防の県民運動になるような、面白くて笑えるようなアイテムをつくろうと考えました。そのとき任意団体「チームオレンジ」を法人格にしようかという話が出たわけです。
 今後について話し合いながらも、忙しさで活動が停滞していた時に、産学連携推進機構の方から「NPO法人にしませんか」とお話があったんです。私達もそう考えていたところだったので、それならば大学発のベンチャーとして活動していきましょう、というのがオレンジAKITAが生まれた経緯です。そこで、秋田県民なら誰でもわかる音楽を使い、コグニサイズの要素であるストレッチや筋トレを準備運動に取り入れた、「歌ってみましょう会」という催しを考えたんです。

「歌ってみましょう会」はどのような活動をするんでしょうか。

 例えばドンパン節を歌いながらみんなで足踏みをしたり、「昨日の夜は何食べた」と、歌詞を変えて、夜ご飯を答えてもらったりしました。そうすると思い出そうとして脳が働くんです。しかし、実際に住民の方とやってみると、ファシリテート(促進)する方がいないと難しいという事もわかりました。
 「フレフレ!コグニ」は頻度と期間を決めていないので、地域で自由に活動できるようにしてもらっています。そこで、地域の皆さんが自由に、かつ円滑に活動できるように、DVDを作成することにしたんです。それから、認知症予防については、実ははっきりとしたエビデンスが出ているわけではないんです。いわゆるMCI(軽度認知障害)と呼ばれる早期認知機能の低下というのは、認知症に移行していることが分かっているわけです。 
 私は講演会等では、「MCIと言われてもがっかりしないで、ラッキーだと思って、ここから認知機能が低下しないようにみんなと騒いで遊んで体を動かそうと思ってください」とお話しています。
 稀にMCIの診断を受けて落ち込んでしまい、引きこもってしまう方もいるんです。検査をして「あなたはMCIです」と診断するだけではなく、これをやってみんなで良くなりましょうという手段を用意しておかなければいけないというお話をしています。それに関しては「フレフレ!コグニ」は絶好のツールだと思っています。

最後にNPO法人化するメリットと、今後の「オレンジAKITA」について教えてください。

 大学に所属したまま任意のグループで活動していく中で、DVDを作成して販売することはとても難しいんです。そういう意味ではNPO法人化して、無料で配布する形がやりやすいと思いました。
 少子高齢化の話題もありますが、秋田の方々は明るいので、「フレフレ!コグニ」と、ドンパン節で笑って、介護予防して、もっとフレイル予防の効果が広まってほしいと思います。オレンジAKITAの構成員、理事たちは皆保健学科の研究者なので、フレイル予防の効果を研究して、エビデンスを出してもらえたらと思います。コロナが収束したら、活動の幅も広がると思います。

中村順子さんはNPO法人ホームホスピス秋田でも理事長を務められています。
NPO法人ホームホスピス秋田についてはホームページをご確認ください。