研究紹介

秋田県にお住まいのご高齢の方々やそのご家族の思いを何よりも尊重し、次の事業に取り組みます

高齢者や認知症の方々は今後さらに増えていくことが予想されます。また認知症は高齢化に伴い、日本だけではなく、世界でも増加しています。厚生労働省の報告によると、日本では2050年には900万人に達すると推計されており、これは高齢者人口の25%、4人に1人にも上ります。また、全世界でも2015年から2050年にかけて、5000万人から1.5億人へと、約3倍になることが予想されています。こういった状況の中、ご高齢者や認知症の方々やそのご家族、そして社会にとっても、さまざまな課題が生じることがあります。ご高齢の方々や認知症の当事者、そのご家族の思いや視点を最も重視しながら、秋田大学高齢者医療先端研究センターでは2つの面を同時に取り組んでいくことが重要と考えます。
1つは、ご高齢者に多い疾患である認知症や呼吸器疾患等の予防法、診断法、治療法に関する研究開発です。
もう1つは、ご高齢者の方々にとってのやさしい地域づくりであり、当事者の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を目指すことです。この2つを両輪として取り組むことがこのセンターの大きなミッションです。

1.認知症の予防や危険因子の解明に向けた取り組み

近年、認知症予防のためには、発症する15年以上前からの治療が有効である可能性が分かってきました。そのため、当センターとも研究連携体制にある国立長寿医療研究センターでは、平成27年度から日本全国で認知症の予防や治療薬の効果検証をするための「オレンジレジストリ」(http://www.ncgg.go.jp/orange/)というビックデータの収集・蓄積を開始しました。
これは、認知機能と体力測定を行うものです。認知機能検査を経年的に受けていただくことにより、自身の認知機能の状態を正確に把握することができます。この研究にご参加いただいている間に、参加者の方のなかでも、軽い物忘れが出てくる方もいらっしゃるかもしれません。そのとき、どのような項目が関係していたのかを、明らかにするための研究です。今年度から、秋田大学高齢者医療先端研究センターと横手市と協力してこの事業に取り組むこととなりました。
今後さらに秋田県内の他の市町村でも展開していく予定になっています。
また、認知症予防を目指した運動プログラムのことを「コグニサイズ」といいます。コグニサイズは、体を使う運動課題と頭を働かせる認知課題、この二つを同時に行うことで記憶力や運動能力の向上を目指すものです。秋田大学医学部保健学科ですでに数年前から開始された事業ですが、当センターも加わりさらに事業を継続拡大し、秋田県をフィールドとした大規模な研究にも繋げるために協力する計画になっています。
さらに65歳未満で認知症を発症することがあります。若年性認知症に関する全国調査にも参加しております。(https://www.tmghig.jp/research/AMED-research/

2.高齢者に多い病気を早期に発見、診断する技術の確立を目指して

「リピドミクス」とは、健康に重要な脂質を体系的に研究する学問です。秋田大学高齢者医療先端研究センターでは、生体情報研究センターと連携して、世界に先駆けたリピドミクス技術を用いて高齢者に多い病気を早期に発見、診断する技術の研究を行う計画としています。
脂質は、私たちヒトの主要成分であり、生命を維持するうえで欠かすことのできないものです。最近、体の中の脂質の量や質が変わると病気になることがわかってきました。
老化関連疾患と脂質との関連について共同研究を推進し、新しい機序での診断法や治療法の開発を目指していきます。

3.高齢者に多い呼吸器疾患への対応

秋田県は特に喫煙率の高い地域でもあります。秋田県は、ガンで死亡する割合が高く、ガンの予防や早期発見も重要です。タバコを吸うと肺ガンに加えてCOPD(慢性閉塞性肺疾患)という病気にもなりやすくなります。
こういった高齢者の様々な呼吸器疾患に対して、当センターのスタッフが、秋田大学医学部附属病院や、県内の医療機関での診療を行っております。秋田大学医学部附属病院呼吸器内科学講座と連携しながら、その診療や予防・治療につながるような研究を推進していく計画になっています。

4.秋田県の高齢者にやさしい地域づくりに向けた取り組み

地域社会学により、秋田県の広大な地域における特有の課題を可視化し、交通・環境・文化などを踏まえた多角的なアプローチを行い、地域包括ケアや医療資源の適正配分等について研究しています。特に、認知症に焦点を当て、秋田県における認知症ケアや認知症の方ご本人への支援を提供する「医療資源」が、市町村ごとにどのように変化し、そのことが認知症の方ご本人にどのように影響しているのか、という研究を、社会学ならびに公衆衛生学の視点から進めていければと考えております。
県内のそれぞれの市町村の課題のみならず、「良い点」を見つけることも、地域社会学のミッションであると考え、平成30年度は、秋田県羽後町の認知症に関するまちづくりにセンターのスタッフも参加し、住民の皆さまから多くを学び、「良い事例」として学会や学術誌等で紹介しております。
さらに、秋田県内の認知症等高齢者にやさしい地域づくりの状況について、全ての市町村へのアンケート調査、インタビュー調査を実施しました。県内の状況の把握に努め、そこから見えてくる課題、市町村間の地域差について、市町村とも協力しながら、包括的に明らかにしていく予定です。
これらの研究の土台には、「認知症予防の活動が、健康な人のためばかりでなく、認知症の方ご本人への支援にも役立つような活動になるように、学問的・実践的な議論を重ねたい」という考えがあります。地域社会において地域に還元できることを目指します。