秋田大学研究者 柴田浩行教授

Lab Interview

「故きを温ねて新しきを知る」ードラッグ・リポジショニングで、癌を制圧する魔法の弾丸を求めて

研究を始めた動機

 物心ついた昭和40年代、「がん」が死因のトップに立ち、小学生の頃には自分もいずれ「がん」になると恐れていた。「がん」は遺伝子の異常で、高齢化で遺伝子異常が蓄積する。長生きしても「がん」になるのでは、、、、。
 医学部の講義でも「がん」は手遅れになると手術はできず、治らないと言われ、手術でゴッソリ切り取られるのも大変である。薬の方が良いと腫瘍内科医を目指したが、当時の抗がん剤は毒性ばかりで、「百害あって一益なし」だった。
 この頃、「がん遺伝子」や「がん抑制遺伝子」が続々と発見されており、抗がん剤よりも、遺伝子研究をしなくてはと基礎研究の門を叩いた。

クルクミン誘導体による免疫チェックポイント阻害活性、Treg抑制

クルクミン誘導体による「がん細胞の糖代謝」の抑制(Biol. Pharm. Bull. Vol. 46, No. 6, 2023より )

クルクミン誘導体の新規合成

研究生活の始まり アイスブレーキング

図1:APC遺伝子を破壊すると、すぐに「がん」ができた

 (財)癌研究会癌研究所で遺伝子改変マウスを用いた発がん研究を始めた。当時、発見された「がん抑制遺伝子」APCをマウスの大腸で破壊した。
APC遺伝子変異は大腸がんの多くで見つかるが、APC遺伝子を単独で破壊しても「がん」になるのか?ということは不明であった。大腸でAPC遺伝子が破壊されると3週間で前癌状態のポリープができ、1年後に「がん」になった(図1)。
 自らの手で「がん」を作ることができた。これには感動した。山極勝三郎はウサギの耳にタールを繰り返し、繰り返し塗って、ようやっと皮膚がんができたという。「がん」研究の神話時代の話と比べ、遺伝子操作はなんと決定的なのかと思った。遺伝子(部品)を操作して「がん」を作ることができるなら、部品(遺伝子)を分解してゆけば「がん」は元(正常)に戻るはずだ。

研究の森、迷路

 乳房でAPC遺伝子を破壊すると腫瘍はできるが良性腫瘍のままで、大腸とは全く様相が異なっていた。APC遺伝子が壊れても、臓器によって様々である。今の流行り言葉で言うと多様性がある
 大腸では、あと一歩で「がん」になるのに、乳房で「がん」ができるには、さらに数歩が必要だ。その差を明らかにしたい。
 こうやって、研究は深く、迷路へと続いてゆく。誰も知らない迷路を彷徨っているが、ここは自分以外は誰も知らない秘密だと時に悦に入る。

ゴールはどこに

図2:ドラッグ・リポジショニングによる創薬

 語りたいことは多いが紙面が尽きかけている。
 研究は「わらしべ長者」である。この童話の中で、藁が蜜柑に交換されたように、研究をやっていると次々と新たな展開が得られることがある。
 私の現在をカッコよく言うと「ドラッグ・リポジショニングによる創薬(図2)」と「化学発がん予防法の開発」と言うことになる。
 どうして、こうなったのかを知りたい人には、私の医局ホームページにある、漫画「カレー物語」を読んでほしい。勿論、作者は私である。

(取材:広報課)
※掲載内容は先生ご本人による執筆です

大学院医学系研究科 医学専攻
腫瘍制御医学系 臨床腫瘍学講座
教授 柴田 浩行 Hiroyuki Shibata