秋田大学研究者 千代延俊教授

Lab Interview

二酸化炭素を回収・貯留する技術開発を進める

化石燃料エネルギーへの依存

1970年の世界の夜の光

2005年の世界の夜の光

世界はエネルギーに依存する

 世界のエネルギー資源には、化石燃料エネルギー(石油・石炭・天然ガス等)と再生可能エネルギーがあります。モビリティを動かす燃料として、そしてプラスチックなどの石油化学製品の原料として、化石燃料は私たちの生活に密着した存在です。しかし近年、化石燃料が排出するCO2が地球温暖化に影響していると問題視され、いまや企業もCO2の排出削減を迫られる時代です。「カーボンプライシング」や「カーボンニュートラル」といった言葉を、皆さんも耳にしたことがあるのではないでしょうか。

 左の写真は、1970年と2005年の世界の夜の光の比較写真です。2005年にはほぼ全大陸の形が見えるほど明るく、電気の使用量が増えていることがわかります。この電気は基本的に化石燃料を利用したものです。
 次のグラフは今後の化石燃料の使用量を推測したグラフです。化石燃料は、今後も大きなシェアを持って使用されるという予測です。しかし、グラフの一番上の線が示すOther renewable(再生可能エネルギー)は、2030年までに少しずつ増加する推測ですが、これでも少ないと千代延教授はいいます。
 「化石燃料の使用を減らし、再生可能エネルギーの使用を増やすことを目標に研究をしています。最近はさまざまな温暖化対策が検討されていますが、現状では、低コストで多くの電力を産み出すことのできる化石燃料に依存せざるを得ないというジレンマがあります」と語る千代延教授。化石燃料の探査技術や開発技術の基盤に、石油地質学の新しい技術を適用しながら、地球温暖化対策と資源調達の存続の両立を目指します。

究極の地球温暖化対策「二酸化炭素回収地下貯留」

石油技術を使った温暖化ガス削減対策
二酸化炭素地下貯留(CCS&CCUS)

 即効性のある地球温暖化対策として研究開発が進んでいるのは、CO2を地中へ埋めてしまおうという試みです。「二酸化炭素回収地下貯留(CCS(Carbon dioxide Capture and Storage))」と呼ばれており、石油掘削の技術を応用し、発電所や工場などから排出されたCO2を他の気体から分離させて回収し、地中深くに圧入し貯留する技術です。
 さらに、それを利用したCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)は、分離して貯留したCO2を古い油田に注入して圧力を高めて油田に残った原油を産出しつつ、CO2の貯留も可能にするという、一石二鳥な方法です。
 CO2の分離回収技術には、個体吸収剤に吸着させる「物理吸着法」、吸収液に溶解させる「化学吸収法」、吸収液に高圧のCO2を物理的に吸着させる「物理吸収法」、特殊な膜でCO2を透過して分離する「膜分離法」、そして極低温状態で液化した後に沸点の違いを利用して分離する「深冷分離法」など大きく5種類がありますが、それらはCO2や分離する気体の組成によって選択され、いずれも高い技術が必要です。
 掘削や地下に貯蔵するという技術は、千代延教授の石油天然ガス開発分野の強みであると言えます。カナダのカルガリー大学との共同研究では、CO2を貯蔵しながら原油や天然ガスの生産増量するCCUSを検討中です。また、再生可能エネルギーとして着目されている地熱発電の熱水に代わるCCSの応用技術「CO2プリュームジオサーマル」という地熱発電技術の開発にも取り組んでいます。1,500~2,000mの高温状態の地層にCO2を圧入し、熱触媒として循環させて発電しようとするものです。千代延教授はCO2を活用した革新的な地熱発電技術の開発プロジェクトにも参画しようとしています。

CO2貯留の応用研究

 千代延教授は、海底地下にCO2を貯蔵することで生じる影響についても研究しています。
 石油を地下1,500~2,000mほどの深さから汲み上げるだけでは地下の圧力がなくなり油を取り切れません。それを防ぐためには、原油が抜けている部分に水を押し込んで、圧力を保つ必要があります。水の代わりとしてCO2を入れることでも、地下の圧力が保つことができます。今まで以上の圧力を加えて崩壊しないように、きちんとモニタリングしてCO2を注入していくことが重要となります。
 さらに、INPEX・JAPEXとの共同研究では、岩石供試体の強度を調査する圧縮試験装置を使い、岩石の構造の詳しい検証実験をしています。これはシェールオイル(地下深くの頁岩(けつがん)層と呼ばれる硬い地層ですき間の無い岩盤に含まれる原油)やシェールガス採掘への応用として、採掘時にCO2を入れた場合の岩盤の割れ方の研究へ繋がっていきます。かつてこれらは採掘にコストがかかり、採算が取れないとされていましたが、水圧破壊技術などの採掘技術が進歩し、近年は生産量が増えているそうです。

秋田が持つ油田層のポテンシャル

秋田市の天然ガスは地産地消

 秋田平野を流れる雄物川流域一帯では、大正時代から原油や天然ガスの探鉱が行われてきました。1950年代には八橋、外旭川、仁井田、桂根、濁川・道川等の油田が、年間25万kL超という日本国内最大の原油産出量を誇っていました。最盛期を過ぎた現在も秋田市内では27基のポンプが稼働し、原油と天然ガスがわずかに産出されています。
 八橋油田、外旭川油田の天然ガスは秋田市内のパイプラインを通り、太平川横にある東部ガスのタンクにダイレクトに貯蔵され、今も秋田市内の家庭で使用されています。これは油田から出る圧力で動いているため、輸送代がかからないというメリットがあります。つまり、地産地消のエネルギーを用いたとてもエコなシステムが、秋田市内で実現しているのです。

秋田へのCCS誘致を目指す

 北海道苫小牧市の沿岸部ではプラントが建設され、日本初となるCCSの大規模な実証試験が行われています。これは日本CCS調査会社(JCCS)による実証試験で、精油所から排出されたCO2を分離し、海底に30万tを貯留するというものです。「この実証試験で成果が出ると、やがてINPEXやJPEXも参入してきます。秋田県も油田がある利点を活かして誘致が進められることを期待したい」と千代延教授は言います。

 現在秋田県でも、三種町の沖合などでCCSの誘致を進める計画があります。三種町の近くに存在する申川油田は陸上施設から海に向かって坑井を掘っているため、既存の坑井を使用できることがメリットのひとつとなります。CO2を排出する発電所や工場の近傍で海底に埋めることができれば、輸送コストもかかりません。秋田県はそうした立地条件が整っています。
 千代延教授曰く、CO2を多く排出する工業地帯は太平洋側に多く存在しているのに対し、CO2貯留に適した地域は日本海側に多いのだそうです。その中でも秋田県はもともと油田が成立していたということから条件の良い地層があり、申川油田でのCO2の貯蔵量は100万t以上とされ、日本でも3本の指に入るほどの量だといいます。さらにその地層評価が詳しく出ているのも、利点であるとされています。

温暖化ガス削減へ向けた先進的な地域へ

 世界は脱CO2へと向かいます。CCSを安全に進めていくためには、地質学の他にも機械工学や化学工学などの専門的な研究が必要となります。現在、秋田県と秋田大学、そして秋田県立大学が一体となり、温暖化ガス削減へ向けた先進的な地域となるべくCCSプロジェクトを強力に推進しています。
 秋田県は化石燃料資源や鉱物資源で成り立ってきた県でもあります。地球温暖化対策・省エネルギーや新エネルギー技術の開発も重要な課題ですが、これから先も必要な資源を、どのように長く採れるようにするかをアカデミーの分野から共同研究する一方で、これまで培ってきたものも無くさずに続けるべきだと千代延教授は考えます。ここ秋田から、世界の資源現場と地球科学分野をリードし、国際的に活躍する技術者の育成に向けて、秋田大学国際資源学部は資源探査や開発から環境リサイクルまで、国内唯一体系的に学べる教育・研究育成に取り組んでいます。

資源地球科学コースの学生の声

修士1年 猿田 光 さん

 秋田油田地域の女川層は石油の根源岩で模式地となっているため、私は秋田県男鹿市の鵜ノ崎海岸で取れたサンプルを使い、岩石の強度を検証しています。これはINPEXやJAPEXとの共同研究でもあり、深度何メートルの岩石はどのような形状や成分で、どのくらいの圧入量で岩石喉の部分が破壊するかという検証実験ができます。
 研究室にあるサンプルの岩石は、掘った深さがわかるように並べられています。黒い部分には油が含まれている兆候が見られるので、色や模様によって含まれている成分(炭素、水素、窒素)の割合をCHN分析器で分析します。そして水やCO2を圧入した場合の強度を調べるために顕微鏡で岩石の細かな形状を観察します。岩石の中には穴があり、その穴がどのように配列されているかで強度がわかります。
 地道な作業ですが結果が出ると実験は楽しいです。将来は研究してきたことを生かして地質系の会社への就職を目指しています。

修士1年 大柳 快晴 さん

 私はもともと石油やエネルギー分野に興味がありました。地質が学べる学部は他大学にもありましたが、資源地球科学を学べる大学は秋田大学のみだったので、国際資源学部を選びました。現在私は秋田県北の八峰町で野外調査をしています。山に入り、地表が出ている場所でその方向や傾きなどを調べ、石油になる岩石がどのように分布しているのかを地質図に表していく調査方法です。ねらい目は川に入った時に岩の表面が出ているところです。
 藤里町の素波里ダム付近では、昔原油が産出されたという記録があります。素波里火山による安山岩が堆積し、火山の熱により旧八森油田として原油が産出されていたのではないかという仮説を元に調査をしています。
 秋田大学国際資源学部には、「秋田だからこそできる研究」の強みがあります。車で数十分の距離に地質巡検に行くことができ、立地的にも恵まれた環境です。高校で地質のカリキュラムを取っていなくても、一から教わることができるので、興味のある方は是非体験してほしいと思います。

(取材:広報課)
※掲載内容は取材時点のものです

大学院国際資源学研究科
資源地球科学専攻
教授 千代延 俊 Shun Chiyonobu
秋田大学研究者 千代延俊教授
  • 秋田大学 鉱山学部 資源素材工学科 2000年3月卒業
  • 東北大学 理学研究科 地学専攻 博士課程 2008年3月修了
  • 東北大学 理学 取得
  • 【所属学会・委員会等】
  • ISO/TC265国内審議委員会、アメリカ石油地質協会(AAPG)、アメリカ地球物理学連合(AGU)、日本地質学会、石油技術協会