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2014.09

仕事と家庭の両立のために

御子神 隆也
御子神 隆也
聖霊女子短期大学
生活文化科 教授・図書館 図書館長

 女子教育に携わる者として「良妻賢母」という言葉について考えたいと思います。この言葉には、差別的ニュアンスが感じられ問題視する向きがあるかもしれません。女性に「良妻賢母」があるのに、男性には「良夫賢父」という言葉がない。「良妻賢母」には、女性を家庭に縛りつけ、社会進出を阻もうとする意図が含まれているのではないか、というわけです。女性が「良妻賢母」であることは、家庭にとっても、さらに社会にとっても喜ばしいことであるはずで、それは「良夫賢父」も同じ。その言葉が現代にいたって疑問視されるのは、家庭が社会活動の足を引っ張るものであるかのように、家庭と社会が二項対立の図式で捉えられ、両者の間に軋轢が生じているからでしょう。
 家庭と社会の二つについて、女性が家庭向き、男性が社会向きと考えるのは明らかな性差別で、男女平等・共同参画を阻害する誤りです。現代にいたるまで女性の適性は家庭にあると誤解されてきた原因は、女性が出産する性だからでしょうか。出産だけは、男性が決して肩代わりできませんから。その出産に育児が結びつけられ、女性は育児も、すると家庭にいるのだから(ついでに?)家事も、とつながって、男女の「役割分担」がそれぞれ社会、家庭という二分法が通例になって行ったのでしょう。この分担制は、単に生存ないし種の存続のためには有利だった、という生物学的な理由があるのかもしれません。しかし、他の動物はどうあれ人間は人間、性差で生活上の役割を固定するという時代錯誤を乗り越えなければなりません。これを歴史的に見ると、長い時代、多くの国々で家父長制度が採られてきたことの名残、というより残滓という見方もできるでしょう。聖書やコーランに基づく宗教思想ないし特殊な男女観が悪影響を与えたのではないか、と考える人がいそうですが、「そうではない」とキリスト教思想の研究者として私は否定したいと思います。男女は対等だがそれぞれ固有の特質がある、という記述を、聖典の解釈者(ほとんど男性)が自分に都合よく曲解し、女性差別を助長した、ということはあったのでしょう。
 この誤りを打破するために、育児・家事という家庭の仕事と、能力の発揮や収入のための社会での仕事、それら二つとも男女両性にとって重要であり、責任の大きさにおいて性差はないという理解を、教育や啓発をとおして広める必要があるのは確かです。そのためには、むしろ家庭の大切さ、人生と社会にとっての出産・育児・家事の重要性を強調し、男女ともに、特に男性に望ましい家庭生活が保証されるような社会制度、労働環境の実現を目指したいと思います。女性の社会進出を言うなら、男性の家庭進出をも言うべきでしょう。
 家庭と仕事の一方が他方の邪魔になる、足を引っ張るという構図は、必然ではありません。男性に育児休業、まして主夫業を認めるなんて理想論だ、家庭を犠牲にして仕事しないと経済競争に勝てない、出産し育児する女性を雇ったり役職につけたりするのは経営上のリスクだ、という「現実的な」反論がありそうです。しかし実は、そのことは出産以外に男女の差はありません。これは、究極的に価値観、個人の選択の問題でしょう。私は「主婦」または「主夫」の社会的評価がもっと高まり(「イクメン」称賛ぐらいでは、まだまだ)、またそれを選ぶ自由が広がってほしい、と考えています。経済活性化のための「女性の社会進出」を政策に掲げる政治家にはにらまれそうですが…。ライフ・ワークバランスをどうするかは、本来個人の自由な選択によるべきですが、実のところ仕事を優先し、家庭、育児・家事を後回しにするという価値観、すなわち経済活動を最優先する不当なバイアスが、日本の社会やその仕組み、特に男性の世界に作用しているのではないかと思います。
 キャリアデザインという言葉の「キャリア」には、夫または妻、父または母として生きることが含まれるはずです。そうした「家庭人」(これは企業人の反対語)であることは個人のアイデンティティーの一部であり、その価値を再認識しそれを選ぶ選択の自由、それを保証する職場環境、社会制度が、特に男性に強く求められています。女性研究者の置かれた環境が男性よりも厳しいとすれば、採用や人事が性別ではなく能力と成果だけで決まるという公平性の実現はもちろん、その夫である男性が「家庭進出」しやすい労働制度が求められます。

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