秋田大学研究者 柴山敦教授

Lab Interview

異文化間コミュニケーション能力を育み、生きた英語を身につけましょう

生きていることばを体験して習得する

 外国から来たお相撲さんは、学校で勉強していないのに、日本語が上手なのは何故なのでしょう。それは、異文化環境の中で日本語の音声や語順をピックアップして真似し、立ち居振る舞いや作法を見て、感じて、体験して、獲得していくからではないでしょうか。今起こっていること、感じていること、動いているものを実際にことばにするという行為は、「生きていることば」を習得することになります。

 佐々木教授は英語の授業研究において、文法的な指導から入るのではなく、「意味」に焦点をあてたコミュニケーションの中で、ことばの語彙や文法といった「言語形式」に自然と注意を向けさせていく指導の形を追究しています。例えば、「タスク」に基づく「フォーカス・オン・フォーム」を基軸とした教え方は、学習者の自発性を尊重しながら言語を習得させるという、学習者主体の言語習得を可能にする方法であると考えられています。

 これらは冒頭で述べたように、海外出身力士の皆さんが自然に行っていることです。他のスポーツ選手や留学、海外赴任の場合にも、同様のことが言えるかもしれません。
  佐々木教授自身、英語は好きでしたが、話すことや聞くことが苦手だったと言います。しかし、大学2年生の時、ロサンゼルスでの18日間のホームステイを終えて帰国すると、今まで聞き取れなかった英語が全部聞き取れるようになっていたそうです。それはまるでマジックのようだったと、佐々木教授は当時を思い起こします。

自然な環境の中で英語を使いながら習得する教室外英語教育

 私たちが、日本語以外の言語に直面した場合、必要な能力は言語能力だけではありません。積極的にコミュニケーションを取ろうとする態度や、知識、解釈し関連付ける力、発見する力、批判的に物を見る力を身につけることが必要になります。これらは異文化間コミュニケーション能力と呼ばれています。

 「言語習得の場を教室にとどまらせず、異文化を取り入れながら、それを素材にした英語教育を展開していくことができたら良いなと考えています。教室内で文法を学び、音声で繰り返してから自由な活動に入るという教育パターンもありますが、それだけでは英語を自由に使うための十分な機会を得ることはできないでしょう。英語は使いながら身についていくものです」と、佐々木教授。文法はコミュニケーションを下支えするものであって、コンテクストの中で使われてはじめて生きてくると考えています。

異文化間交流と言語習得が一体になった英語教育

英語体験学習事業「イングリッシュ・アドベンチャー」に参加した学生

 異文化間交流と言語習得が一体になった英語教育構築の一環として、佐々木教授と学生たちは、2017年9月に英語体験学習事業「イングリッシュ・アドベンチャー」(主催:横手市)を実施しました。この事業は、横手市の小学5、6年生を対象として、雄大な自然の中でのアウトドア活動や宿泊体験を通したふるさと教育と、留学生や大学生との英語を使ったコミュニケーションの中での国際感覚の育成を目的に今回初めて実施されました。将来英語教員を目指す学生にとっても、英語教育を実践できる有意義な機会だったようです。

こどもたちと「ふるさとプレゼンテーション」を作成中
英語教育コース 4年次 千葉奈々美さん(写真中央)

 英語教育は、「英語力・異文化間コミュニケーション能力・教師力・教育力」が大事だと話す佐々木教授。英語教員になる人は、異文化間コミュニケーションと言語習得が融合した言語教育観を持っていることが望ましいという考えのもと、授業でも留学生やALT(外国語指導助手)、国際交流コーディネーターの協力を得て、異文化交流をしながら言語学習を俯瞰していくというコースを立てています。

小学校英語教育の早期化に向けて

 2011年度に小学5、6年生で外国語活動が始まり、2020年度には小学3年生から外国語活動、小学5年生からの教科化が全面実施されます。移行期間として、2018年度から先行実施する小学校も少なくないようです。

学習指導要領の変化に応じて教科書に取り上げられる内容も変わっていく

 また、秋田大学では小学校教員が英語の中学校教諭二種免許を取得するという認定講習を2017年4月から実施しました。文部科学省でも研修を進めていますが、実際指導に当たる教員の間でも、指導内容や指導方法など大きな課題があります。グローバル人材を育てるという目標がある中で、楽しみながらコミュニケーション能力を身につけさせるという教師の指導力が一番の課題となるかもしれません。小学校では、「話すこと」「聞くこと」の活動を十分に行い、そこで育成された能力を生かして「読むこと」「書くこと」につなげた言語活動を展開し、総合的な英語コミュニケーション能力の基礎を培うことを目指します。

 良くも悪くも、教師教育はそのまま英語教育に影響します。これから英語教員を目指す学生の教師教育もまだまだ課題があります。様々な言語教育観を尊重しながら、言語習得をおこす授業づくりができる英語教員をどのように育成できるか、日々模索しているとのことです。

英語は単なる教科ではなく「ことば」、英語教育も常に動いています

 「英語教育は動いています。その中でより良い英語教育の担い手を目指す人を必要としています。英語教員はチャレンジングで、かつ教育を通して社会に貢献し、社会を変えていく原動力となり得る、創造的な職業だと思います。常に新しいものを開拓していく気概を持って高校生活を送ってほしいですし、大学ではさらにその意欲が育っていくと信じて秋田大学で学んでほしいと思います」と、英語教員を志す学生たちに向けてエネルギッシュであたたかいメッセージをいただきました。

 異文化間交流の中で、英語を使い、浴びることで、生きた英語を習得するよう努めてきたという自身の経験から、現在の言語教育観にたどり着いた佐々木教授。英語教員の本当の力は、学習者の言語習得が進むように授業を構築できる力にあると考えます。

英語教育コースの学生の声

教育文化学部 学校教育課程 英語教育コース
4年次 佐藤 千歩さん

 9月に試験的に行われた、横手市の子供たちを対象とした英語体験学習「イングリッシュ・アドベンチャー」に参加しました。2020年度から始まる小学校の英語授業指導はまだ模索段階である中で、小学校の教員志望の私たち大学生が、実際に教師役になるという貴重な体験を積ませていただきました。私たちは、子供たちと留学生との橋渡しのような役割をしました。身近な物や動物、色などの単語はすぐに親しんでもらうことができましたが、それを文章化するのが難しいなと感じました。
 今後は「フォニックス」という英語の教育方法を課題にしていきたいです。英語の発音と綴りの規則性をルール化してスペルを覚える学習法や、ライミングワードといって、同じ発音を持つ単語をグループ分けして英語を学んでいく学習法もあります。これらが実際の小学校英語教育の授業現場で今後どのように展開されていくのかを卒論のテーマに掲げ、研究を続けていきたいと考えています。

教育文化学部 学校教育課程 英語教育コース
3年次 戸田 慶子さん

 2020年度には小学3、4年生から外国語活動が始まり、小学5、6年生は英語が教科化されます。今回参加した「イングリッシュ・アドベンチャー」では、どのように文字や発音の指導をしたら良いのかを、子供たちとの関係性の中から探していければということも、課題でした。子供たちが留学生に横手市を紹介するというジェスチャーゲームでは、遊びの中にも横手ならではのオリジナリティを入れながら、ふるさと教育も兼ねるという狙いを組み入れてみました。
 今後は小学校、中学校両方の教員資格取得を考えていますが、どちらを選択するにしても、主体的な学びを促せるような体制を作っていきたいと思っています。いわゆる「アクティブラーニング」と呼ばれるものですが、活動の中に目標と目的を見出し、英語を使う必然性を持たせてあげることで、主体的に英語に親しんでいけるような授業を構築していけるよう、これからも研究に励みたいと思っています。

(取材:広報課)
※掲載内容は取材時点のものです

教育文化学部 学校教育課程 英語教育コース
教授 佐々木 雅子 Masako Sasaki
  • レディング大学(英国) 応用言語学コース 修士課程 1996年12月 修了
  • 新潟大学 大学院教育学研究科 修士課程 1997年03月 修了
  • 大学英語教育学会賞 新人賞(2002年度)実践賞(2003年度)