秋田大学研究者 大場司教授

Lab Interview

水蒸気噴火を軸にした火山現象の追究

わずかな水で大きな被害をもたらす水蒸気噴火

 日本列島には108もの活火山があり、世界の活火山の7%を占めています。「活火山」とは、現在噴火活動をしている火山及び過去1万年以内に噴火した火山のことを指します。世界有数の火山大国である日本の中でも、北海道、東北、関東、九州地方には特に多くの火山が連なります。北海道の有珠山、熊本県の阿蘇山、鹿児島県の桜島、長野県・群馬県にまたがる浅間山、伊豆諸島の三宅島、長崎県の雲仙岳などが代表的です。さらに、日本の代名詞であり2013年に世界文化遺産に登録され多くの登山客で賑わう富士山も、噴火のおそれがある活火山なのです。

 「記憶に新しい2018年1月の草津白根山の噴火や、2014年の御嶽山の噴火では大きな被害に見舞われました。これらは『水蒸気噴火』と呼ばれる種類の噴火でした。水蒸気噴火は、火山研究の中でも世界的に研究者が少ない領域です。近年の火山災害により、研究の必要性が高まっていることも感じます」と話す大場教授。
 高校の化学で習うように、水は急激に膨張すると大きな体積の水蒸気になります。水蒸気噴火もこれと同じ現象で、火山の地下にあるちょっとした地下水が、マグマの熱で温められて水蒸気になり、体積が増えて爆発するという原理です。
 「わずかな水で、大きな被害をもたらす、それが水蒸気噴火です。噴火の高さや噴煙の形からどれくらいのエネルギーの噴火だったか、また地下でどのようなことが起きたのかを推定することができます。顕微鏡観察や化学分析では、地下がどのような条件にあるか、どのような火山で噴火が起きやすいのかも調査しています」
 大場教授は岩石学と水蒸気噴火の豊富な知見を軸に、野外調査や火山灰等の堆積物の顕微鏡観察や化学分析(EPMA、XRF、質量分析、分光分析等)を主な研究手法として、噴火のメカニズムや鉱物資源との関係を研究しています。

秋田県で起こりうる、十和田大噴火

 現在、秋田県内には6つの活火山(鳥海山、秋田焼山、秋田駒ヶ岳、十和田、八幡平、栗駒山)があります。中でも栗駒山・秋田焼山・秋田駒ケ岳・鳥海山の4つは、かなりの頻度で水蒸気噴火が起きるということがわかっています。ただ、水蒸気噴火は比較的規模が小さいため、十分注意すれば対策はできるそうです。
 水蒸気噴火より規模の大きいマグマ噴火の危険があるのは、秋田と青森の県境に位置する十和田だそうです。観光地であり「湖」の印象が強い十和田ですが、あの大きな湖そのものが、大昔の噴火でできた巨大な穴「カルデラ」なのです。
 「十和田はめったに噴火はしませんが、まれに噴火が起きます。さらに、軽石や火山灰を大量に吹き出す大規模な噴火(プリニー式噴火)が起こりえます。噴火が起きた時に水を伴う大災害が起きる危険性も含め、十和田のようなカルデラ湖で起こる噴火について最近研究が進められています」

 1991年に九州の雲仙普賢岳で起こった火砕流(噴出した高温の火山灰・軽石・火山岩などが高速で流れ下る現象)が、十和田ではもっと大きな規模で起こるのではないかと考えられています。高い山だからといって大きい噴火が起こるわけではなく、カルデラを形成するような火山は大規模噴火が予測されるので、鳥海山等の円錐状の山より、なだらかな十和田の方が注意が必要だということです。
 平安時代に起こった十和田噴火の際には、現在の鹿角市周辺は高温のマグマによって全て焼き尽くされたと言われています。現在、大場教授の研究室の学生達も当時の被害について調査を行っています。また、八郎潟・十和田湖・田沢湖に纏わる「三湖伝説」は当時の十和田噴火を語っていると言われており、伝説と噴火の関係を調べる学生チームもあります。
 美しい風景と温泉でにぎわう観光地ということもあり、大場教授は自治体と連携してハザードマップを作成するなど、火山災害への対策を進めている最中です。

御嶽山、草津白根山の水蒸気噴火

 1970年(昭和45年)、秋田駒ケ岳でマグマ噴火が起こりました。この噴火は噴石などがあまり遠方まで飛ばないストロンボリ式噴火と呼ばれるものだったため、比較的安全な噴火だったと言われています。さらに1974年(昭和49年)には鳥海山で水蒸気噴火があり、仁賀保出身の大場教授は当時小学生でした。
 そして秋田県内での一番最近の噴火は、1997年(平成9年)秋田焼山の水蒸気噴火です。この噴火は御嶽山や草津白根山の噴火とよく似ていると言います。大場教授は就任以降ずっと研究を重ねてきました。御嶽山噴火の時は、培った水蒸気噴火についての研究手法や知見を元に、当時の博士課程の学生さんと一緒に研究を行ったそうです。

 「金属鉱山関係の研究が盛んな秋田大学国際資源学部ならではの視点から、水蒸気噴火について調べることもできました。噴火した火山灰を調べ、地下には鉱山のようなものが形成されつつあるということを解明しました。高温の流体がある状態で、銅や金ができるということです。水蒸気噴火が起きていた環境で銅の鉱石もできるという説を鉱床学の研究者も唱えていましたが、実際に火山研究者が実地で噴火したものについて調べ証明したのは、我々が世界初でした

 大場教授は御嶽山噴火は、前兆として地下で地震が起きていたと言います。マグマの熱で沸騰する前の圧力がかかった地下水が動き、何らかの拍子に出てくるというのが、水蒸気噴火のしくみと捉え、その揺れを観測していれば、離れた場所の地震計でも測定できるという考えでしたが、草津白根山は、なんの前触れもなく突然噴火したと言います。偶然にも噴火が起きる数ヶ月前、大場教授は他大学の教授陣や学生たちと共に草津白根山を訪れフィールド実習を実施していました。現在、調査の見直しや観測体制の強化、活火山のリストアップ等の対策が施されているところです。
 「噴火の予測には、長期予測と短期予測の二種類があります。我々は地層を観察することにより、その火山の噴火時期を調べています。百年や千年といったスケールでの長期予測になります。また、地震を観測している研究者は、地震や地殻変動などの観測から、噴火の短期予測を試みています」

近年の火山災害を受けて

 日常的に噴火に備えるためには、どのようなことに気をつけるべきなのでしょうか。特に活火山の近くに住んでいる人は、ハザードマップ上で自分の住んでいるところがどのような被害を受けるのかを確認し、防災機関の指示に従った備えをする必要があります。ただし、火山によって特徴が様々であるため、災害の形態も様々です。行政がそれを理解した上で、住民の皆さんにもよく理解して備えてもらいたいと、大場教授は話します。
 「活火山から離れた場所で暮らす人も、登山や観光で活火山に行く際には火山情報をきちんと確認しておくことが大切です。今後も地域社会の『安全』を守るという点で、様々な行政機関や大学と協力しながら研究成果を活用して地域に貢献していきたいです」
 御嶽山の噴火被害を受け、平成28年から文部科学省主催の「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」がスタートしました。日本の大学には火山専門の学部がなく、秋田大学に研究者が3名在籍し、参画しているのも全国的には多い方だと言います。さらに平成30年3月からは、大場教授と筒井智樹准教授がこのプロジェクトの教育プロジェクトである「火山研究人材育成コンソーシアム構築事業」に参画し、火山研究のさらなる発展と次世代研究者の育成に精力的に取り組みます。

シンプルでダイナミック、地球現象の魅力

 大場教授が中学3年生の時に宮城県沖地震、高校3年生の時に日本海中部地震と、連続して大きな地震が起こりました。小学生の時には鳥海山の噴火を身を持って経験したこともあり、地球現象への関心が膨らんでいったと言います。中でも地学に興味を持ち、火山と地震について学びを深めました。

 「国際資源学部は資源を学ぶところではありますが、その資源を生み出す地球の営みには様々なものがあります。地球に興味のある人にとてもおすすめしたい学部ですね。地球現象は、物理や化学の基本原理を簡単に適応できるという点や、ダイナミックでわかりやすいシンプルさも魅力です。とても奥が深いので、研究をすればするほどハマっていきます」と話す大場教授。これからも水蒸気噴火の貴重な専門家として、研究のニーズが高まる火山学を追究していきます。

(取材:広報課)
※掲載内容は取材時点のものです

大学院国際資源学研究科
資源地球科学専攻
教授 大場 司 Tsukasa Ohba
  • 東北大学 理学部 1988年03月卒業
  • 東北大学 理学研究科 地学専攻 博士課程 1993年03月修了
  • 秋田大学 国際資源学部鉱業博物館 副館長
  • 秋田大学国際資源学部資源地球科学コース長
  • 岩石学研究室