研究者リレーコラム

  1. ホーム
  2. 研究者リレーコラム
  3. 人生を変えた塩の話

2022.3

人生を変えた塩の話

石川 匡子
石川 匡子
秋田県立大学
生物資源科学部 応用生物科学科 准教授

 現在、スーパーや百貨店では多種多様な塩が陳列されている。1997年に塩専売法が廃止され塩事業法が施行されたのに伴い、国内各地で地先の海水を用いた塩が製造・販売されるようになり、輸入塩の再加工塩、さらには塩自体の輸入販売など、非常に多くの塩が市販されるようになったからである。販売当初、これらの塩はイオン交換膜製塩法による塩に対して、美味しさや無機成分の豊富さといった食品素材としての優位性が強調されていた。本学が開学したのは1999年。ちょうど多くの塩が販売し始めた時期であった。当時の研究室の教授が「様々な塩が製造・販売されるようになったのは好ましいことであるが、科学的裏付けがないまま受け入れられ、販売されているとしたら問題である。科学的客観的事実を発信し、正しい判断材料を提供しなければならない」とおっしゃったことが、私と塩の出会いのきっかけであり、現在まで続く「塩の研究」のスタートであった。
 塩は製造法が違えば、成分も形も大きさも異なる。それがどれだけ味に反映されるのか。一口に「塩味」と言っても、濃度によって心地よく感じられたり不快に感じられたり、また液体で口にしたときや粒のまま口にしたときでも異なる。それをどうやって調べたらいいのか。当時の私にはこれらの分析技術がなかったため、官能評価や塩の分析を専門とする多くの先生方にご教授いただき、なんとか実験を進めることができた。塩の特性が分かったら、次はそれが加工した食品にも反映されるのか、研究を展開していく中で、塩がいかに料理の味バランスに影響を及ぼしているのかがわかっていった。日々新しいことが分かる度、「研究が楽しい!」と実感した。塩は私たちの食生活に欠かせないにも関わらず、周りに塩の研究をしている人がいなかった。もしかしたら独りよがりな研究結果かも知れない。そこで、学会での発表はもちろん、懇親会や若手の会などでも積極的に交流することで、学外の研究者の知り合いを広げ、情報交換もできるようになった。私が今日まで研究を発展させることができたのは、この方たちのおかげだと思っている。
 調理学や家政学のような一部の学会を除いては、女性の参加は少ない。思えば、高校から女性が少ない環境で生活し、それが当たり前だと何の疑問もなく過ごしてきた。社会人になり、学会や大学で抵抗なく順応できたのは、それが理由だと考えている。現在はライフワークバランスが提唱され、働きやすい環境作りが進められている。今はまだ小さな動きかもしれないが、周りの方々の理解が進んでいけば、理系の女性が働く場が増え、またその活躍を目にした女子中・高校生の新たな目標となるのではないかと期待している。
 一方、現在の私はというと、学生と一緒に「塩味が強く感じられる調味塩の開発」に取り組んでいる。生活習慣病予防のため、減塩が推奨されている。塩が調理において果たす味付けの役割は大きく、塩味の付与はもちろん、他の味と相互に作用し、増強あるいは抑制する効果を持つため、極端な減塩はおいしさの低下を引き起こすことから、十分浸透していないのが現状である。この研究を通して、料理の美味しさを保持したまま減塩が可能になればと期待している。塩の研究は絶賛邁進中である。

コラム一覧へ
  • 研究者コラム
  • ロールモデル紹介
  • 女性研究者のためのキャリアアップ・学び直し情報
  • お問合せはこちらから
  • 秋田大学男女共同参画推進室コロコニ
  • 続あきた理系プロジェクト
  • 秋田大学