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コラム「この先生にきいてみよう」

第2回 推理する化学

岩田 吉弘(教育文化学部 教授)

 戦後間もない頃の大学の講義録(授業の記録)をまとめた本から引用します。
  「化学の学習、特に化学の基礎を学習する時には、大局に留意することが絶対に必要である。枝葉末節のことにあまり気をつけると、大局を誤りなく理解することができにくくなる。わが国の従来の化学教育においては、多くの学校で化学の基礎において大局を正確に捕らえさせるという教育法ではなかったように思う。断片的な事実を一つ一つ暗記するというような、無味乾燥な教育法が行われておった。これがためにわが国では、化学はいやな学科面白くない学科として取扱われていた。


 化学は決して暗記を主とする学科ではなく、推理を主とする学科である。物理、数学のように、推理的に学習し得る興味ある学科である。」
(永海佐一郞著、化学の真髄と酸化および還元反応、内田老鶴圃新社、昭和26年)

 高校、大学生の皆さんは、このように化学を「推理する」学問だと考えたことがありますか。化学用語のDetectは「検出する」ですが、Detective Storyとなると「推理小説」となります。化学反応が起こる「現場」や、犯人である「原子」を見た人はいません。状況証拠から真実を説明することは化学の難しさであり、醍醐味でもあります。

 教科書には「原子」の姿が写真付き出ている、といった反論があるかもしれません。しかし、これはシルエットであって、姿ではありません。それでは写真に撮ることができるのかといった疑問が出てきます。今日の量子化学の考えでは、「原子の姿を写真に撮ることは出来ないことが分かっている」のです。原子の構造モデルがありますが、これは状況証拠の積み重ねで、原子の姿を推理した結果です。

 教育現場を取り巻く様々な状況のため、「化学は暗記物」であったかもしれません。大学は真理の探究の場です。高大連携テキストは真理をもとめる推理小説ととらえていただければ幸いです。皆さんにとって、この高大連携プロジェクトが大学における教育・研究の地固めになることを期待しています。