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2014.04

子どもにとっての親・子どもにとっての保育

奥山 順子
奥山 順子
秋田大学 
教育文化学部 こども発達・特別支援講座 教授

 現在、子どもを育てながら仕事を続けておられる方の多くは、保育所あるいは幼稚園での預かり保育などを利用していることと思います。最近は、保護者・家庭の多様な実情に対応できるように、病児保育、長時間保育、休日保育など保育の提供の形態も多様になってきました。働く親たちにとっては、子育てと仕事の両立はしやすい状況が整えられつつあるように見えます。そして保育の現場では先生方が様々な工夫や配慮の下に保育を展開し、子どもたちと共に生活する場を豊かなものとなるよう努力しているものと思います。

 働きながら子どもを育てる皆さんにとって保育の場が必要であることは言うまでもありませんが、子どもにとっても、保育の場は家族とは異なる人たちと出会い、友達と出会い、家庭では経験することのできない新しい出会いも体験して成長していく大切な場所です。保育所や幼稚園で過ごす間は子どもにとっての先生方は、親のように安心して共に過ごせるよりどころとなっています。

 保育の場では、そこが子どもにとっての安心の場となるよう、そして子どもにとっての幸せな生活の場であるようにと、多くの保育者が努力をしています。その一方で、配慮された保育所や幼稚園にも、どうしても実現できないことがあります。それは、集団の場であるということによるものです。その日の気分やその時の状況によって、一人の世界に浸りたくても、計画された生活とは違うことに興味が向かっていても、集団の生活ではそれを実現してもらうことには限りがあります。もちろん、そういうことを通して我慢したり友だちと一緒にしようとしたりすることも子どもの成長には大切な経験です。しかし、ひとは誰でも、自分は自分、他の誰でもない「自分自身」として受け止められ、受け入れられる経験が必要なのです。特に幼児期から小学生くらいまでの子どもの時期にこそ、そうしたことをしっかりと実感できることが生涯にわたる発達の上でとても大切なことです。保育の場でもそういう一人ひとりへの配慮はなされていますが、子どもにとってちゃんとそれを実現できるのは、親・家族です。主体として生きることのできる、ひととしての成長のはじまりを支える存在です。

 よく、仕事から帰って家事に取り掛かろうとしても子どもの機嫌が悪くて困る、甘えがひどい、反抗的、などという声が聴かれます。ほんとうに子どもは大人の思惑通りにはいかないものです。何度言い聞かせても繰り返し同じようにして自分をアピールしてきます。仕事に疲れた身としては「泣きたいのはこっち」と言いたくなることもあるかもしれません。しかし、それはお仕事でがんばっている大人と同様に、子どもも保育という社会の中でがんばっている証しでもあるのです。

 そんなときには、ひと息ついて、子どもがちゃんと自分を主張して、受け止めてほしいというメッセージを送っていることを、成長の表れとして喜んで受け止めてみるようにしてみましょう(多くの場合は自然にそれができているはずですが…)。疲れていてそんな気分にならない、子育てがうまくいっていないことの表れなのではと不安になる、忙しくてそんな悠長なことはしていられない、先生や他の家族への不満も……、そんなことも時にはあるかもしれません。その気持ちは、とりあえずはそのままでもいいのです。でもちょっとだけ後回しにして、まずは、子どもを「たった一人のあなた」として受け止めてみてください。わがままを許すということとは異なります。まずはそのまま受け止めることです、拒否や否定をせずに…。

 その場で問題解決などしなくてもいいのです。無理にいい親であろうと振る舞う必要もありません。困ったときには親だって「困った」と言ってもいいのです。幼い子どもでも、そういう大人のほんとうの気持ちは、ちゃんと感じ取ることができるものです。だからこそ、まずは、たった一人の主体としての自分でいられる家庭では、子どもを受け止めることです。そうすれば、子どもも親を受け止めていくことができると信じて……。

 他の誰でもない、たった一人の子どもと、たった一人のあなた(親)との関係です。

 社会に多様な保育サービスが充実することは、働く者にとっては歓迎したいことです。親も子どももそこでの生活で、人とのかかわりを広げていってほしいもの。しかし、先に書いたように、集団保育の場は、どんなに頑張って子どもたちに自由な世界を保障しようとしていたとしても、人間関係も場所も時間も、子どもの意志で自由にはならない部分も必ずあるところだということを大人は理解している必要があります。家族や保育施設、そのほか子どもにかかわる人たちが柔軟に協力しあって、子どもの育ちを支えていきたいものです。

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