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2016.11

アフリカ稲作に出会って15年

曽根 千晴
曽根 千晴
秋田県立大学
生物資源科学部 生物生産科学科 助教
研究内容

 秋田県立大学で、イネの環境ストレス(塩、冠水、乾燥および栄養素欠乏)耐性の向上をテーマに研究しています。主に対象は、アジアおよびアフリカの発展途上国です。早急な機械化や、ダムや堤防、水路の整備といった大規模な土木工事は想定せず、出来るだけ現地の農家が行える手法、が目標です。そのため、品種の持つストレス抵抗性を引き上げる手段として、ストレス条件下での生理機構の解明を行っています。具体的には、塩ストレスや冠水ストレス、乾燥ストレス条件下で、耐性品種と感受性(ストレスに弱い)品種を栽培し、生育や葉の光合成能力、体内の栄養素の変動等を調べています。
 実際に、国立研究法人国際農林水産業研究センターとの共同研究で、ガーナ共和国の氾濫原低湿地(大河川流域の雨期に川からの氾濫水がある場所)での稲作普及を研究していました。年に1ヵ月(播種時期に2週間、収穫時期に2週間)、3年間通い、現地の村に畑を作って試験を行いました。村ではイネは、降雨のみに頼って栽培する天水稲作で作られています。これまでに天水稲作について色々な文献を読んでいましたが、実際に自分がやってみるとその大変さが身に沁みました。種子は、雨期の開始後に播きますが、雨期の開始は年によって異なり、1ヵ月以上のばらつきがあります。降雨量も勿論不安定で、ある年は雨期の始めに2-3日雨が降った後は、1ヵ月以上雨が降らず、干ばつ害が起こりました。毎年天候に振り回されている農家の姿を見ると、何とか安定的な収量を確保できる稲作体系を作りたいと強く思い、研究を続けています。

研究分野における男女共同参画

 現在、全国の大学の農学区分における女性比率は44%(政府統計の相談窓口 H27年度関係学科別学生数)と、理系では高い水準にあります。しかし、その割合は修士では36%、博士後期課程では33%となり(政府統計の相談窓口 H27年度専攻分野別大学院学生数)、研究者を目指す女性の割合は男性に比べ低下します。この傾向は特に上の世代で顕著で、例えば私の所属している学会では、50代以上で定期的に学会に参加している女性研究者は男性の数%ではないでしょうか。一方、自分が学会に参加し始めてからの15年間を振り返って、現在40代以下の女性研究者は目に見えて増えました。出産して育児休暇を取得後、復帰した女性研究者も多く、私たちの世代以下ではこのようなライフプランが普通になってくると思っています。
 振り返ると、私の大学時代は博士後期課程までの9年間を通じて、同じ学部に女性教員は1人もいませんでした。当時はそのことに対して疑問も感じませんでしたが、今考えると、約半数の女子学生に対して不思議な割合であったと思います。今所属している秋田県立大学の生物生産科学科では、24名の教員中、女性教員は4名です。また、学部長も女性で、これは全国の農学系の大学で唯一と伺っています。このような環境では、学生にとって女性教員は、割合は低いが決して珍しい存在ではないと思います。今後は後に続く、もっと多くの女性研究者が誕生するのではないかと考えています。しかし、正規のアカデミックポストに就くことの難しさから、周囲には研究者夫婦が別々の機関で働き普段は離れて暮らしている遠距離婚や、相手の仕事によっては夫婦どちらかが正規職を手放したり、諦めたりする例も多く、何らかの支援や改善が必要と思われます。

海外での経験

 これまでに、博士後期課程時に西アフリカのベナン共和国に2ヶ月間、秋田県立大学に着任後にガーナに合計で約3ヶ月間、海外で現地の畑を使った試験研究を行ってきました。以前「海外で働いていて女性を意識するような経験はあるか?」という質問を受けたことがありますが、研究上ではほとんどありません。私の経験では、海外の研究者は性別よりも博士号の有無を気にする傾向があるように思います。日本では一緒に働いていて博士号の有無を訊かれることはあまりありませんが、海外だとほぼ最初に質問される気がします。また、博士号を持っていることを伝えると、研究計画や分析が出来る同じ研究者として扱われるようにも感じます。日本では博士号は「足裏の米粒(取っても食べられないが、取らないと気持ち悪い)」と表現されることもありますが、海外で研究するつもりがあるなら取得することを強く勧めます。
 アフリカの圃場(畑や水田)試験では、研究者自らが率先して土にまみれる日本と異なり、作業はアシスタントや作業員が行い、研究者は男女問わずその監督および指示を行うことが一般的です。私の試験でも、規模によって10名前後の圃場がある村の村人や、共同研究先の研究機関のアシスタントを日雇いで雇い、作業をしていました。その際、作業の指示は英語が分からない作業員もいるため、まず共同研究先のアシスタントリーダーに作業内容を伝え、彼から作業員に現地語で伝えてもらっていました。年配の村人の中には、私に監督・指示されることに嫌そうな顔をする人もいましたが、周囲の作業員やアシスタントリーダーの協力で渋々ながらも作業をしてもらいました。また、上記で研究上では性別を意識したことはないと書きましたが、ガーナの圃場がある村では、周囲にトイレおよび水道がなく、少し苦労しました。さらに、作業の監督中は35℃前後の炎天下に数時間立っていないといけないため、ある程度の体力は必要と思います。その他では、マラリア蔓延国のため、週に1度マラリア予防薬を服用していましたが、服用中および服用中止後も3ヶ月は副作用のために妊娠および授乳を勧めないという注意書きがあり、その点は出産を考えている女性には制限があるかもしれません。

研究者を目指す方へのメッセージ

 昔読んだ本に、「研究者を目指す上で大事なことは、周囲の同級生たちが次々と就職していく中でもプレッシャーに負けずに研究をし続ける精神力」、と書いていました。学部から上では、男女問わず、どんどん同級生は減っていきます。将来への不安に駆られることもあると思いますが、続けているとある日自分は何故研究をしているのか、答えのようなものが得られる日が来ると思います。自分を信じて頑張って下さい。

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