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2021.01

大和なでしこ~今、むかし

大森 久子
大森 久子
公立大学法人 国際教養大学
国際教養学部 助教

 私が担当する授業の一つに「日本における宗教」というクラスがあります。本学におけるほかの日本研究のように、日本で育った学生より、留学生に人気のあるクラスで、感染症の影響によりオンラインに移行する前は受講生のほぼ3分の2が留学生でした。正規生の受講者と世界の様々な場所からくる留学生と私で、日本社会ではなかなかタブー視されて語ることの少ない「宗教」を英語で15週間にわたって考察するという講座です。いろんな意味で私も毎年楽しみにしている講座のひとつです。
 日本の宗教、特に仏教に関してはよく勉強してから来日する留学生が多く、日本で育った学生は留学生の知識の豊富さに圧倒されるのが常です。授業の初日に高野山で買ったという指輪を東欧出身の留学生が見せてくれたり、人気漫画「鬼滅の刃」の聖地となった国内の神社を英国からの留学生がプレゼンテーションで紹介してくれたりします。それに対して、日本の学生はアマビエのブームを紹介したり、国際教養大学らしく教員も学生もお互いの知識・意見を交換しながら知見を深める一学期となります。
 このクラスで、私がいたずらをする前の子どものように使うのを楽しみにしている教材があります。それは、16世紀に日本に来て織田信長の時代に京都に滞在していたイエズス会宣教師ルイス・フロイス(1532-1597)の書いたもので、彼が直接見聞きした日本の習慣をヨーロッパのそれと比較して箇条書きにしたものです。その中に日本の女性とヨーロッパの女性を対比したものがありますが、これがなんとも面白い。そして、面白いだけでなく、現代に生きる私たちが勝手に想像する「昔の女の人」像からあまりにもかけ離れていて、一体私たちの持つ「昔の女の人」という虚像はどこから来たのかという疑問を現代の私たちに投げかけてくれます。
 日欧の文化比較であるため、もちろん現代の私たちが納得するものも多くあります。例えば、「ヨーロッパの女性は明るい色の髪を誇りにし、それを保つために様々な努力をする。日本の女性は明るい髪の色を嫌い、黒い髪を保つためにあらゆる努力をする。」確かに日本では一般に黒髪が美しいとされていて、そのために当時の女性が努力を重ねたというのは、納得がいきます。「ヨーロッパの女性はきれいに形作られた眉を誇りに思うが、日本の女性は毛抜きですべての眉を抜いてしまい一本も眉毛を残さない。」この眉毛に関する描写もそんなに驚かないのではないでしょうか?テレビなどで確かに見たことのあるスタイルだと思います。
 でも、次に紹介する比較はどうでしょうか?「ヨーロッパでは男性が先に歩き、女性はその後ろを歩く。日本では男性が後ろで、女性が先。」「女性のたちが悪いため離婚を言い渡すのは(ヨーロッパでは)普通男性であるが、日本では往々にして離婚を言い渡すのは女性のほうからである。」「ヨーロッパでは娘や若い女性はめったに外に出さないように大切に育てるが、日本の若い娘は自分の行きたいところに一日でもそれ以上でも両親に知らせることなく勝手に出かける。」目に浮かぶのは親の言うことなど聞かない元気闊達の若い日本女性、それに男性を後に従える女性の姿。でも一体そんなことが現実だったのでしょうか?フロイスはさらに続けます。「ヨーロッパでは結婚した夫婦は土地を共有する。日本では夫と妻それぞれが土地を所有し、時には妻が夫にそれを利子をつけて貸す。」「ヨーロッパでは女性が料理をするのがふつうである。日本では男性がそれを行い、また騎士の中では料理ができることがいわば風流な趣味を持つこととみなされる。」(日本語訳はすべて英訳からの私訳です。)
 これは江戸時代よりも前の話ですし、フロイスが見聞を広めたのがいったい支配階級のみだったのか、あるいは市井の民まで接触することが可能だったのか、わからないことは多くあります。私は歴史を専門とする学者ではありませんので、当時の女性の姿が一体本当のところはどうだったのかをお伝えすることはできません。ただ、一つ分かっているのは江戸時代以降に儒教の教えが流行し、その儒教の教えるところの女性像が現在流布している日本の女性像と重なるところが多いということです。
 それにしてもフロイスの描く女性像は現代の私たちの想像を見事に裏切り、その姿にすがすがしささえ感じるのはなぜでしょう。授業の中でこの文献を読むアメリカからの留学生も、日本で育った正規生も、皆一様にフロイスの日本女性の描写に驚きます。私たちが認識する「伝統」とは、そんなに長い歴史がないのかもしれません。また日本列島に住んだ先人たちは私たちの想像を超えるような男女関係を織りなしてきたのかもしれません。文化は常に変化するものであり、その変化の担い手は実は私たち自身なのです。社会の構成員一人一人がそれぞれの力を存分に発揮して、ユニークな個性をさらに伸ばして活躍する社会に期待します。

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