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2024.1

女性のウェルビーイングを実現する職場について考える

金谷 優輝
金谷 優輝
日本赤十字秋田看護大学
看護学部 助手

 この度は、男女共同参画に関する自分の考えを著す機会をいただきありがとうございます。
私は昨年度まで大学院修士課程で、訪問看護師のワーク・ライフ・バランスに関する研究に取り組みました。それをきっかけに、看護職のウェルビーイングに寄与する職場づくりについて関心を寄せています。そこで、いま私が考える男女共同参画に関する問題について女性のウェルビーイングと職場づくりの観点でお伝えしたいと思います。
 男女共同参画にまつわるトピックとして、わが国のジェンダー・ギャップ指数(GGI)の低さがよく取り上げられます。この指標は、経済参画、政治参画、教育、健康の分野毎に指数を算出し、高いほど男女平等であることを表します。日本の2023年GGIは146か国中125位で、とりわけ経済参画、政治参画の値が低く、女性の管理職比率や、国会議員比率の低さが課題となっています。このようなジェンダー格差に対して、わが国では女性活躍の実現に向けた取り組みが推進されています。しかし、メディア等で数値目標が強調されるあまり、私には、どうも女性のウェルビーイングの視点が置き去りにされているように思えるのです。
 男女共同参画白書令和5年版によると、18~34歳の未婚女性の理想とするライフコースは、「両立コース」(34.0%)に次いで「再就職コース」(26.1%)、「専業主婦コース」(13.8%)、「非婚就業コース」(12.2%)、「DINKsコース」(7.7%)の順で構成されており、女性が自身のライフスタイルに思い描く理想は一様ではないことがわかります。また、令和3年に「両立コース」が、それまで首位であった「再就職コース」に取って代わったことは、女性のワーク・ライフ・バランス志向が高まったことを示唆しています。
 女性活躍の推進は垂直方向のキャリア上昇志向の女性にとっては待ち望んだ機会であるはずです。しかし、ワーク・ライフ・バランスを取ることを志向する女性にとって、管理職などの指導的地位に就くことは必ずしも幸福につながるとはいえません。奥田(2018)は、様々なライフコースを歩む女性を取材・調査し著した「『女性活躍』に翻弄される人びと」の中で、女性活躍の推進をPRするために、仕事と子育てを両立している女性管理職というロールモデルとしての役割を会社から要求された女性の葛藤を紹介しています。そして、先述のような数値目標が女性に「女性は子どもを産み育てながら、働き、さらに管理職について活躍するべき」という一様な生き方の規範を押し付け、その苦悩に拍車をかけていると指摘しています。つまり、女性活躍に関する社会からの成果偏重主義的な要求は女性の葛藤を生み、幸福からは遠いものとなる可能性があるのです。
 ただし、ここで述べておきたいのは、私は男女共同参画の数値目標やその達成を否定するわけではありません。なぜなら、男女共同参画の目標達成もまた、女性の経済的自立、ワーク・ライフ・バランスの実現によって幸福につながるからです。
 では、どのように男女共同参画の目標を達成し、女性の幸福を追求していけばよいのでしょうか。私は、従来追求されてきた組織のハードな側面である目標の導入や制度構築をしながら、職場や組織の人間的な側面である互いの関係性や協働性を良好にしていくことが重要と考えます。なぜなら、職場内に多様な人材が存在することで、多かれ少なかれコンフリクトが生じるからです。例えば、両立支援制度を利用する従業員がいる場合、制度の恩恵を享受しない従業員に業務負担が及び不公平感が生じることがあります。そして、仕事におけるコンフリクトは家庭生活にもネガティブな影響を与えます。つまり、家庭生活のウェルビーイングの追求が、職業生活のウェルビーイングを低下させては、統合された女性そのもののウェルビーイングは成立しないのです。
 前述の理想とするライフコースの変容からは、今まさに女性の生き方に対する価値観の変革期であることが伺え、これまで以上に職場の多様性や異質性が高まっていくと思われます。今後、ダイバーシティーマネジメント上の課題となる要素と、職場の人間関係というリソースとの関連を検討し、より効果的なダイバーシティーマネジメントの在り方を検討していく必要があるでしょう。

【引用文献】
奥田祥子(2018).「女性活躍」に翻弄される人々,光文社.
男女共同参画局ホームページ,ライフコースの希望,男女共同参画白書令和5年版.
島津明人(2014)ワーク・ライフ・バランスとメンタルヘルス-共働き夫婦に焦点を当てて.日本労働研究雑誌,653,pp75-84.

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