1. ホーム
  2. 高大接続センター
  3. コラム「この先生にきいてみよう」

コラム「この先生にきいてみよう」

第11回 「何のために学ぶのか」について考えてみよう

大野 勝好(秋田大学教育推進センター 特任教授)

 私は研究者でも学者でもありません。三十余年民間企業で働き、定年後あるプロジェクトを担当する教員として採用されました。それは、キャリア教育です。最近キャリア教育が重視され、皆さんの高校でも何らかのキャリア教育が行われていると思います。その考え方、方法、ウエイトは学校によって異なるようです。

 “キャリア教育”=“就職・働くこと”と捉えられることがありますが、確かに就職や働くことには関連します。しかし、就職する為の心構え、テクニック、パフォーマンスなどを教えたり支援したりするものではありません。広義では、キャリア=人生、人の生き方なのです。即ち、自分の人生をどう生き抜くか、どのようにして人生を歩んでいくかなのです。誰しも自分のやりたいことができ、経済的にも精神的にも豊かで幸せな人生を送りたいと思うでしょう。そのような人生を歩むにはどうすべきかの示唆と力を与えてくれるのがキャリア教育の本質です。

 皆さんは大学に入学することだけを目的化していませんか。教育は目的ではなく手段です。自分のやりたいことをする、人に役立つことをする、社会や企業で適応する、そして幸せな人生にする。教育とは、それを実現させる力、意欲をもたらすものです。それによってどのような大学で何を学ぶべきかが何となく見えてくるはずです。自分の偏差値で入れる大学を目標にするのではなく、自分は将来このようなことがしたい、そのためにはこのようなことを勉強しなくてはならない、それが学べるのは○○大学の○○学科である。その大学に入るためには偏差値○○以上でなければならないが、今の自分の偏差値では足りない。だから勉強する。それが努力なのではないでしょうか。将来像を描き、明確化することで、勉強が苦でなく楽しくなってきます。

 「やりたいことに向かう」は人のモチベーションを高め、時として勇気を与えてくれます。以下に、そのことを改めて考えさせてくれる人との出会いがありました。紹介させていただきます。

 それは平成24年9月、五能線の下り列車「リゾートしらかみ」の車中での出来事からでした。

 私の勘違いで指定席に間違って座っていたところ、途中の「十二湖」から60代半ばの男性が一人で乗ってこられました。障がいのある方のようでした。座席はその方のもので、詫びて席を替わろうとしましたが「どうぞそのままお掛けください」と言われ、固辞したものの、折角の心遣い・・・とそのまま座らせていただきました。それがご縁で秋田までの約2時間、世間話を含め様々な話をしました。

 その中で、私が「よく旅行に行かれるのですか?その際、ご自身のコンセプトは何ですか?」との問いかけに対して「カメラです」と答えられました。 “大手企業に就職し27歳の時に脳梗塞から障がい者に。絶望と劣等感に苛まれて生きる力を失いそうになった日々もあった。何とか定年まで働くことができ、定年後こうして旅行している。元来おとなしく、かつ劣等感で引っ込み思案の私ですが、カメラを持ち被写体に向かうときは、自分が障がい者であることを忘れて人をかき分け前へ前へと進むのです。消極的な自分が嘘のようです。”・・・以下略このことから学ぶのは「自分のしたいこと」「想い」「信念や価値観」「目標」などは自分を強くし、モチベーションを高め前へ前へと自分を向かわせる。大げさな言い方をすれば「生きる力」を与えてくれるということではないでしょうか。40数年間「生きること」に葛藤してきた人の含蓄のある言葉でありました。

 老婆心ながら今一度「キャリア」について考えてみてください。「自分のしたいこと」に向きあってください。自分というのが見えてくるはずです。そこから何となくであっても意欲が沸いてくるはずです。