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コラム「この先生にきいてみよう」

その人にとって当たり前の生活を尊重し支援する作業療法

秋田大学大学院医学系研究科保健学専攻作業療法学講座
石川 隆志(医学部保健学科作業療法学専攻)

 仕事柄、東京などの都市部に行く機会があります。その時に感じることは、人、ビル、大小さまざまな広告など、目(視覚)を通して入ってくる情報の量の多さです。また、耳(聴覚)を通して入ってくる情報量の多さも同様です。都市部に住んでいる人たちにとっては、それが当たり前ということになりますが、私にとっては普段の何倍もの感覚情報が入ってくるのです。さらに、都市部に行くと歩数は普段の3~4倍になります。大学への通勤は自家用車を使い、大学内の移動距離も少ないことから、健康維持のために推奨されている歩数には遠く及ばないのですが、都市部に行った時にはクリアできるのです。歩行は主に下肢の筋肉を使う運動ですが、足の裏や足・膝の関節からも道路の感触や傾き、下肢が動いている感覚情報が入ってきます。それらはほとんど意識されませんが、改めて足元に意識を向けると皆さんにも、情報の量と質がはっきりとわかると思います。

 このように日常生活は情報の入力と出力(反応)の繰り返しから成り立っています。そして日常生活には運動機能に加え、理解、思考、判断などの高次の脳機能の働きが必要です。私たちは、たくさんの情報の中から自分にとって必要な情報を取捨選択し、ほとんど意識することなしに反応し環境に適応しているのです。都市部に行った時に私が感じる違和感は、普段と違う情報処理を求められている身体からのサインなのかもしれません。都市部に住んでいる方が秋田に来ることがあれば、同じように情報の量と質の違いに戸惑うかもしれませんね。

 皆さんは、病気やケガをした時に、自分の身体感覚に違和感を覚えたことはないでしょうか?身体に何らからの制限が生じると、無意識に身体をうまく使って環境に適応していた状態から、意識的に身体を使わざるを得ない状態になります。作業療法の対象者の多くは、さまざまな原因によりそのような状態にある人たちです。そのため、作業療法では、脳を含む身体の構造と働きを勉強します。つまり当たり前がどのような状態であるかを学びます。その上で作業療法では、脳を含む身体の状態と日常生活との関連を勉強します。

 また、日常生活がたくさんの作業から構成されていること、何らかの原因でそれらの作業がうまく出来なくなった患者さんや対象者が、もう一度その人にとって必要で大切な作業ができるように、医学的な知識を裏付けとして支援を行います。その人にとって必要で大切な作業は一人ひとり異なるため、その人がどのような仕事をしてきたのか、好きなことはどんなことなのか、どのような価値観を持っているかなども重視して支援に生かします。

 さて、空を見上げるという表現がありますが、都市部にいる時にはまさにその表現が当てはまるなと感じます。皆さんの住んでいる街ではどうでしょうか?秋田のほとんどの場所では見上げなくても空は視野に入ってきます。ビルの谷間から見上げる空、目の前に拡がる空、どちらもその街に住む人にとっては、親しみのある空、当たり前の景色なのではないでしょうか。

 もうすぐ桜の季節がやってきます。皆さんと同じ年代の頃に、秋田を離れ名古屋のある大学に入学するための夜行列車の道中で迎えた朝の車窓から、桜並木を見かけ驚いたことを今でも鮮明に覚えています。3月末のことでした。秋田の桜は4月中旬から5月初旬に開花します。皆さんの住む街の桜もきれいでしょうね。


都市部のビルの谷間から見上げる青空

秋田県由利本荘市の住宅地と田畑の上に拡がる青空

秋田県仙北市角館町の桧内川堤のソメイヨシノ