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コラム「この先生にきいてみよう」

鉱物資源を探す

渡辺 寧(大学院国際資源学研究科 教授)

 鉱物資源を個人で探す人のことを日本では「山師」(やまし)と呼んできました。山師の意味を辞典で見ると、「山を歩き回って鉱脈を探す職業の人」のほかに、「投機・冒険をする人、また詐欺師」と書かれており、一般にはあまり良い印象を持たれていないことがわかります。かつて資源の探査は、岩石の色や鉱脈の破片、わずかな金の兆候などを山中で見つけて、山肌に穴を掘り、連続する鉱脈が見つかった時には鉱山として開発されてきました。今から30年ぐらい前、私が資源探査の道に入った頃は、年に数回、岩石の試料を見てほしいと、私の勤務先(工業技術院地質調査所)に持ち込む山師がいました。このような人は、今ではほとんど日本にはいませんが、カナダでは現在でも「探鉱・開発家協会」の会議が毎年トロントで開かれ、そこでは個人探鉱家が自分の採取してきた鉱石試料を並べて、探鉱会社の興味を引くコーナーがあります。

 現在、鉱物資源の探査はもっと科学的に行われています。地下の鉱脈を探す場合、鉱脈が含まれていそうな断層や、熱水から鉱脈が固まってできる時に、熱水とまわりの岩石が反応してできる粘土質変質岩を、地球を周回する衛星から捉えることができます。地表では、土壌や岩石にわずかに含まれる金や銅を分析し、どこに目的とする元素が濃集しているかを割り出すことができます。さらに地下に電気を流したりや振動を加えることによって地下の地質構造を物理的に探ることもできます。これらの調査結果を総合的に解釈し、鉱脈が最もありそうな候補地を決め、最終的には地面に穴をほり(ボーリングと呼びます)、地下の岩石を取り出し、鉱脈の有無を確認します。

 このように書くと資源の探査は簡単に見えるかもしれませんが、実際は大変苦労をします。山師が活躍した時代には、鉱脈は地表に露出しており、それを探せばよかったのですが、そのような鉱脈はすでに発見され掘りつくされています。今は地下深くに潜む鉱脈をどうやって見つけだすかが課題になっています。そのため、目的とする鉱脈だけでなく、鉱脈を作った熱水がどこで生まれ、どのように流れ、どのように金属鉱物を沈澱し、どのような末路をたどるかのストーリーを組み立て、そのストーリーに合うところを探すことになります。このように鉱物資源の探査とは、推理小説のように、探偵が事件の証拠を読み解き、誰が犯人かを突き止める作業に似ています。この時に一番大事なことは、どれだけ多くの、しかも重要な証拠を集められるかということです。テレビのドラマでも、活躍する探偵や刑事は他の人が見過ごしてしまうような事実から事件解決の鍵を見出します。資源探査の場合も、どれだけ現場をくまなく調べたか、また得られた事実をきちんと説明するモデルを作れるか(推理ができるか)が大事です。

 国際資源学部の資源地球科学コースでは、3年生になると「進級論文」という授業があります。この授業では、秋田県内の数キロメートル四方の地域を選び、約1か月弱、ひとりひとりの学生自身がどこにどのような岩石が分布しているかを調査します。その結果を「地質図」として取りまとめ、みんなの前で発表するとともに報告書として取りまとめます。これまで道もない山の中を歩いた経験のない学生にとっては大変な苦労ですが、ほとんどの学生が卒業時に最も印象に残る授業だと言います。そしてこのような経験が将来、資源系の会社に就職した時に役立ちます。皆さんも資源を探す「探偵」を目指してみませんか?


北海道の山中で金鉱脈の証拠を探す国際資源学部の学生