コラム「この先生にきいてみよう」
次世代を担う高校生の皆さん、一緒にグローバル化が進む世界の医学・医療と医学教育の理想的な将来像を考えてみませんか?
医学専攻 医学教育学講座
長谷川 仁志(大学院医学系研究科 教授)
高校生の皆さん、こんにちは。医学教育学講座の長谷川です。私は、もともと循環器内科医ですが、2008年から医学教育を専門として、各分野の先生とともに医学教育改革に取り組んできております。本稿では、世界と直結している医学教育改革の背景や状況から、医師の魅力と医学科で学ぶ面白さを感じていただければと思います。
1.世界共通:学部内に教育部門を持つ医学科の特殊性
この40年の基礎医学、社会医学、臨床医学の各分野は専門化、高度化され学ぶべき各分野の情報は爆発的に増大してきました。卒後ほぼ100%医師免許を取得する医学生を教育することの社会的責任は大きく、世界的にも、どの分野の医師としても必須の実践力を卒業生全員に過度な負担なく質保証するという重要な目標に向かって、すべての分野が連携し協力して医学教育を展開していく必要が出てきました。この流れは、欧米を中心に1970年~1980年前後からありましたが、2000年前後から、IT技術の発展に伴って世界中がインターネットでつながった後から、急速に展開してきました。このような背景で、現在、世界のほとんどの大学の医学科では、本講座のように、各分野の先生とともに、医学科全体の教育をコーディネートして発展させる部門を持つようになってきています。
2.先駆的に展開してきた本学の医学教育の歴史
戦後初の国立大学医学部である本学部では、1970年の開設当時から、新たな医学教育改革に継続的に取り組んできました。当時から全国に先駆けて米国の医学教育の先端となるいくつかの大学を訪問し、1年次からの解剖学をはじめとする基礎医学や臨床医学教育を導入、1976年には6年次に対する全国初の県内医療機関における臨床実習を開始、2004年には全国初となる卒業時のOSCE(客観的臨床能力試験)を20ステーションで開始するなど新しい教育展開を積極的に取り入れてきました。(最近の初年次からのシームレスな取り組みなどは研究者特設サイトをご参照ください。)
3.次世代を担う皆さんへ
医学は、どの分野もニーズが高く、それぞれ国内の学会のみならず、世界規模の欧米の学会やアジア全体の学会などが盛んに行われ、世界の医療の発展につながってきております。医学教育も同じで、この分野の世界規模の学会にはAMEE(国際医学教育学会)があります。毎年、ヨーロッパの主要都市で開催されますが、世界各国からの参加者が約5000名と、ここ数年で急増してきております。(数万人以上集まる主な臨床医学分野の国際学会に比べると未だ少ないですが)近年の急増ぶりは、医学教育改革の世界的なニーズの高まりを表していると考えられます。本稿を書く直前の2019年8月に、ウイーンで開催された学会に参加しました。ITを駆使したデジタル教育に関する1日間のワークショップでは、南アフリカの女性医師、イランの男性医師、オーストラリアの女性医師と日本(私)の4名でグループワークを行い、近隣のヨーロッパ諸国の医学生たちも加わりました。世界中の皆さんとお話していると、医学・医療およびその教育の世界は一つであることを実感できます。それぞれの国における医療は千差万別ですが、その事情の中で様々な課題を持っている指導医の思いや、日々、医学生が感じている気持ちは日本と大変近いものがあるのです。グループで1日過ごすと、世界中の医学生のため、将来の医学の発展のため、そして最終的には患者さんのために理想的な医学教育を展開することの重要性や難しさについて様々な観点で共感することができました。そしてそのような思いを、次世代の皆さんに伝えて教育を連鎖していくことが重要であると感じております。
次世代を担う高校生の皆さん、社会の期待に応えるために、是非、私たちと一緒に、グローバル化が進む世界の各専門分野の医療と医学教育の将来を考えてみませんか?どの分野も世界と直結した有意義でやりがいと魅力あるものです。
シミュレーションの様子
セッションの様子