秋田大学研究者 オブラクタスティーブン教授

Lab Interview

試料から見える過去の環境の変遷を追求する

堆積物コアからわかる地球の地質や環境の変遷

 皆さんは「堆積物コア」とは何かわかりますか?「堆積物コア」とは、地球の表面に積もった堆積物や土壌の中を掘削して採取された円筒状の試料のことです。堆積物には過去の環境変化が連続的に記録されていることから、水温の変化や海水準、海陸の変化などを解明し、復元することができるのです。
 オブラクタ教授はさまざまな機関や研究者たちと共同研究を行い、世界中の海底や湖底の地層のコア、時にはサンゴ礁のコアも採取しに行きます。採取したコアの断面は環境の変化によって色が異なるため、オブラクタ教授は変化したコアの色を正確に把握し、採取場所の環境がどのように変化していったのかを研究しています。
 研究室で堆積物コアの分析結果をきちんと評価した後に、データサイエンスを駆使して過去の環境変化のほか、急激な気候変動の理由や火山噴火の歴史、津波の頻度、年代測定などそれぞれの研究テーマに沿って細かく解析します。そしてそれらの結果から今後の対策に繋げられるよう取り組んでいます。
 さらにオブラクタ教授は、自身でプログラミングができるという強みを活かして研究に必要なさまざまなソフトウェアやプログラムを自ら開発し、利用しています。

精度の高い研究成果を得るために

従来の悩みを解決に導く撮影装置「ナマハゲ」の誕生

オブラクタ教授と研究連携者が開発した「ナマハゲ」

 コアの断面の画像をデータとして使うには、歪みやずれのない状態で撮影しなければなりません。しかし、堆積物コアの写真を一般のカメラで撮る場合にはどうしても視差が入り、色彩地の色のデータがずれたり歪んだりという問題があります。もしずれたままの画像で解析してしまうと、コアの断面の色の変化が実際とは異なるタイミングで起きていると誤解してしまう可能性があるそうです。
 そのため、ラインスキャンのようにカメラを動かしながら全て同じ距離から連続で撮影し、その画像を手動で全て切り抜いて組み立てるという技術が必要だといいます。しかしラインスキャンは高価で壊れやすく、丁寧な扱いが求められるため限られた所にしか導入されていません。
 また、コアの撮影には現場で得た試料をコアスキャナが導入されている施設に持っていかなければならないことも難点です。コアは海底下では無酸素状態ですが、表面にその堆積物を持ってくる時点で酸化され変色し、撮影する時には実物とは異なってしまうという問題を解決するため、オブラクタ教授は「ナマハゲ」というフィールド持ち込み型ポータブル撮影装置を開発しました。

低コストで高精度のコア画像が作成できる

移動点と静止点に分れらた分布図から傾き等を調整する

2つの色彩値が重なるように補正する

 「ナマハゲ」は調査船に積むことができるため、採取したコアをすぐに撮影することができます。レールが動きながら2つの写真を連続に撮り、撮影した2枚の写真から検出した同じ特徴をコンピュータービジョンという手法を使ってマッチングさせ、2枚目の写真はどのくらい動いたのかを分布に表します。それを参考に傾きやズレを補正します。
 また、船での電気供給の状態が不安定だと照明が明るくなったり暗くなったりしてしまった場合も同様に特徴をマッチングさせカラーチャートの部分をそれぞれから抽出します。これらを繋げる時は同じくオブラクタ教授が開発した「コアラボ」というソフトウェアで全体のRGBの中央値を求め、それぞれの写真を最も中央値に近くなるように微調整していきます。
 こうしてナマハゲによって撮影されたコアの断面画像はコアスキャナで撮影した写真と同等のクオリティとなり、現在は産総研(国立研究開発法人産業技術総合研究所)との受託研究でさらに1台制作し、提供する予定だといいます。

グレートバリアリーフの起源を探る

 オーストラリアの東海岸沿いを約2,000㎞に渡って広がる世界最大のサンゴ礁地帯「グレートバリアリーフ」。オブラクタ教授は、長年このグレートバリアリーフの研究を続けてきました。
 グレートバリアリーフの起源はとても古く、深くまで掘削することが技術的に難しいため、リーフを直接調べることができないそうです。そこでオブラクタ教授は、浅海性と深海性の堆積物から海水準の変動を調べました。
 グレートバリアリーフ周辺はモンスーンや梅雨前線の通り道であり降水量が多く、陸上の堆積物が川まで流れるため、海水準が上下に変動するといいます。そして浅瀬では、多くの炭酸塩鉱物や貝殻が生産されます。川から流れ付く堆積物と浅瀬の堆積物の混合する割合が環境の変化によって変わるという特徴に目を付けたオブラクタ教授は、採取した堆積物にリーフが入っているかどうかで大陸棚がいつどのように変形していったのかを復元し、グレートバリアリーフが約8000万年前に形成されたものであると間接的に年代を特定したのです。
 「この研究を国際学会でも発表しました。その後コロナウイルス感染症の影響もあり研究を進めることが困難になることもありましたが、最近ようやく研究の最後まで進むことができました。今後はどのような環境がリーフの成長を進めたのかを詳しく研究したい」と言います。

富士山噴火とその背景

 静岡県と山梨県にまたがる富士山は標高3,776mの日本の最高峰であり、その美しい風貌は日本の象徴として富士五湖の景色とともに四季折々の風景が訪れる人々を魅了しています。そしてこの富士山は活火山としても知られています。オブラクタ教授は地震や津波の研究も行っており、富士山の噴火の研究に至ったのも過去に起きた宝永地震の調査がきっかけだったといいます。
 富士山の最後の噴火は今から約300年前の宝永大噴火で、その7週間前には宝永地震という南海トラフが震源の大地震が起きていました。宝永大噴火が起きた時、噴煙や火山灰が東京まで達していたそうです。
 もし現代で富士山が当時と同様の噴火をした場合、ライフラインなどは全てストップし、その被害は宝永大噴火を上回るほどではないかとオブラクタ教授は言います。そのため富士山の噴火予測はもちろん、広域的な降灰の影響や対策は社会的にも重要な課題となっています。これを解決するためには過去の噴火の時期や降灰範囲について詳しく知る必要があります。

研究の結果、2回の未知噴火が確認された

 そこでオブラクタ教授は富士五湖の中で最も深く、堆積が連なっている山梨県の本栖湖の地層を採取し、東京大学と産総研、ベルギーの研究グループとともに火山の噴火史の研究を行いました。そこで得た試料を詳しく観察し、過去に起きた御嶽山の剣ケ峰噴火、静岡県の大室山の噴火、富士山西の大沢噴火がもたらした火山灰がどこに分布しているのかを見極めたのです。
 この研究で、上記の噴火による降灰範囲が従来の推定より広く、どの噴火にも対応しない火山層が2つ見つかったことから、富士山の西側で2回の未知噴火があったことを突き止めました。
 「放射性炭素年代測定を用いて湖底堆積物の年代を詳しく調べることで、富士山の噴火の頻度や規模の予測に重要な知見を得ることができた」とオブラクタ教授は語ります。

多くの出会いと学びの場を

 オブラクタ教授は世界中の研究者たちと共同研究を行う中で、フィールドワークなどを通じて学生にもさまざまな専門家たちとの出会いや学ぶ機会を提供しています。
 「研究自体は単独でもできますが、コアの採取は一人では決してできない作業です。先日黒潮の変動の研究を行うために、学生たちも一緒に白鳳丸という調査船で東シナ海へ2週間ほど行ってきました。実際に現場へ行くことは研究室だけでは体験できないことばかりなので、コミュニケーションも含めて色々なものを吸収できます」
 この研究は東京大学、金沢大学、東北大学、九州大学、北海道大学と共同で行っており、多くの研究者が参加しているそうです。(研究代表者は国立科学博物館に所属しています。)現在オブラクタ教授たちは、過去の黒潮の変動を知るために堆積物コアから過去の水温を判断し、等温線を復元する研究に取り組んでいます。黒潮は九州地方から海流に乗って日本海に入ってくるため、黒潮の流れが分かれば秋田県の降雪量なども推定することができるのです。

 こうした研究のほかにも、地球環境情報学研究室の学生は特に東京大学大気海洋研究所と密に連携し、度々東京大学を訪れては最先端の技術を活用して研究に取り組んでいるそうです。
 オブラクタ教授は自身の研究にきちんとエビデンスを示して信頼性の高い研究を行っています。また、基礎をしっかりと理解しながら最新の発展した技術を経験することで、基礎から最先端の分析まで幅広く学べる環境で研究を行うことができるとオブラクタ教授は言います。オブラクタ教授はまだまだ研究していきたいことがたくさんあるそうです。今後も最新の技術を取り入れながら様々な学術やデータサイエンスを用いて、地球上のあらゆる環境変遷を解明していくことでしょう。

(取材:広報課)
※掲載内容は取材時点のものです

大学院国際資源研究科 資源地球科学専攻
教授 オブラクタ スティーブン Stephen P. Obrochta
秋田大学研究者 オブラクタスティーブン教授
  • エカード大学 海洋学部 1997年12月卒業
  • 南フロリダ大学 海洋学部 海洋地質 修士課程 2004年7月修了
  • デューク大学 地球海洋学部 博士課程 2008年12月修了
  • 【取得学位】
    エカード大学 学士(理学)
    南フロリダ大学 修士(理学)
    デューク大学 博士(理学)
  • 【所属学会・委員会等】
    日本第四紀学会 広報委員会、日本第四紀学会 領域1(気候変動及び海洋の諸プロセス)評議員
  • 地球環境情報学研究室ホームページ