秋田大学研究者 熊谷 誠治教授

「もみ殻」が電気を蓄える?~秋田に豊富にあるもみ殻を有効利用~

培ったもみ殻の研究と専門分野の電気工学を融合

 秋田大学着任前、研究員を経て秋田県立大学で8年間勤務していた熊谷教授。当時から秋田で毎年大量に排出される「もみ殻」の有効利用に着目していました。灯油の不純物を除去できる吸着剤を、もみ殻を炭にすることで実現するなど、現在の前身となる研究を行っていました。2011年、秋田大学に着任が決まり研究テーマを練っていた時に、今まで培ったもみ殻の研究と、元々専門としていた電気工学を組み合わせた研究をしたいと考えたそうです。そこで、もみ殻の炭が電池の電極材料として使えるのではないかとひらめき、もみ殻を利用した蓄電デバイスの開発を行うことになりました。

 パソコンやスマートフォン等の電池に使用されるリチウムイオン電池のプラス極にはリチウムを含む金属酸化物、マイナス極には炭素が用いられています。それら電極の間にセパレータというリチウムイオンを通すための小さな穴が多数あいた絶縁フィルムを挿入し、電解液に浸し、容器でパックすることで、リチウムイオン電池ができあがります。リチウムイオンがプラス極とマイナス極の間を行き来することで、電池の充電と放電が可能になります。何度も充電と放電ができる蓄電デバイスは二次電池と呼ばれ、私たちの日常の生活と密接に関係しています。

タダ同然のもみ殻から、電極材料の炭素をつくりだす

 リチウムイオン電池の中で重要な材料の一つが、マイナス極に使われる炭素、いわゆる炭です。現在のリチウムイオン電池に用いられている炭素は、鉛筆の芯に用いられる黒鉛や石油、石炭、プラスチックなど化石資源に由来するものを原料にしています。熊谷教授は、米どころ秋田で大量に排出されている「もみ殻」から、その炭素をつくりだそうとしています。しかも、単なる農業廃棄物の有効利用が目的ではなく、従来のものより高性能な炭素をつくりだすことを真の目的としています。
 全国のもみ殻排出量は200万トン弱にものぼり、秋田県でも年間12万トンものもみ殻が排出されています。その3分の2は畜産および堆肥の資材、暗きょと言われる田んぼ下の水路用資材、園芸用くん炭などに利用されています。しかし、残り3分の1は明確な利用用途がありません。2000年頃までは、もみ殻や稲わらは野焼きにより処分することができましたが、現在、野焼きは条例等で厳しく制限されています。そのため、もみ殻の利用用途が限られていた地域では、もみ殻の処分が切実な問題となりました。熊谷教授は秋田県立大学在任中にもみ殻の有効利用についての相談を多く受け、早くからこの問題に注目していました。

もみ殻から蓄電デバイスができるまで

 お米を包むもみ殻には、20%程度のシリカ(二酸化ケイ素)という成分が含まれています。稲は土壌からケイ素を吸い上げることで、穂が実っても倒れない強度を得ます。一方、稲は種子(お米)を守るために、それを包む殻を強固にします。すなわち、もみ殻にシリカを貯め込みます。健全な稲の成長には、シリカは欠かせないものです。熊谷教授は、植物有機分とシリカが混じり合うというもみ殻の独特な組成に着目し、もみ殻を蓄電デバイスの電極材料に活用する方法を見出しました。

 もみ殻を利用した電極材料は以下のように製造されます。
 酸素がない状態でもみ殻を熱処理して、もみ殻を炭化します。これは炭焼きと同じ原理です。この状態では、炭素とシリカがナノレベルで混じり合っています。そして、もみ殻炭を水酸化ナトリウム水溶液に入れて、シリカを溶出させます。ただし、すべてのシリカを溶出させずに、一定量のシリカを残すことが技術的な工夫になります。これにより、優れたリチウムイオン電池のマイナス極をつくることができます。また、溶出させたシリカは、ケイ酸ソーダまたは水ガラスとして、土建や窯業資材として有効活用できる可能性もあります。

 「もみ殻には、シリカの他にカリウムやリンなど、土壌由来の無機成分が含まれます。無機成分は、稲の成長した土地によって異なります。元来成分に個体差のあるもみ殻を原料として、いかに同じ性能を有する電極材料を多量につくるかが、これからの課題になります。現時点において、特許出願および論文発表がなされており、今後は材料やデバイスメーカーとの連携を図り、実用化を目指します」

 これまで活用できていなかったバイオマスを原料にして、優れた性能を有する蓄電デバイスを開発することができました。稲作が盛んな秋田では、もみ殻は安定的に排出され、また極めて安価です。熊谷教授の手により、処分に困っていたもみ殻が貴重な資源になるかもしれません。

社会的ニーズの高い、蓄電デバイスの研究

 「パソコンやスマートフォン、最近では電気自動車やハイブリッド車など、様々な製品にリチウムイオン電池が使われています。この電池が、もっと長く使えたらいいなと思いませんか?」と熊谷教授。
 再生可能エネルギーの導入、大気汚染を軽減できる電気自動車の普及、生活に不可欠な携帯端末の高性能化には、多くの電気を蓄えることができ、寿命も長く、軽量で安価な蓄電デバイスが必要不可欠です。蓄電デバイスの技術開発は、国際的にも注目される分野です。
 「より性能の優れた蓄電デバイスを実現することで、研究者として、皆さんの生活および社会に貢献します。また、もみ殻という秋田に豊富に存在するバイオマスの有効利用を通じて、地域産業の活性化にも寄与します。」

 理工学部には、学生の皆さんが学んだ知識を直接社会に還元できるという魅力があります。理工学部を卒業することで、グローバル企業においていろいろな国で仕事をすることも、地元企業で働き、地域と密着した生活をすることもできます。すなわち、将来の選択肢が大きく広がります。最近、理系女子も増えており、研究開発の世界において、女性の活躍が目立つようになってきました。
 面白いと感じたものに対する興味を膨らませ、いかに社会に役立つ技術を創り出すことができるのか、また、いかに新しい科学的な発見をするのか、この設問に対して自分なりの解を見つけることが、理工学の醍醐味です。熊谷教授は、次世代の科学技術を牽引する技術者、研究者の育成に情熱を燃やします。

研究室の学生の声

大学院理工学研究科 数理・電気電子情報学専攻 電気電子工学コース 2年次
羽富 正起 さん

 電気二重層キャパシタの安全性を向上させる研究をしています。電気二重層キャパシタは高速での充放電が可能です。自動車の減速時に失われていたエネルギーを、電気二重層キャパシタに貯めることで、発進時の補助エネルギーに利用することができます。これにより、自動車の燃費が良くなります。ところが、電気二重層キャパシタに使用されている電解液は燃えやすく、発火しやすいという問題点があります。より安全で、性能の良い電解液を探し出し、電気二重層キャパシタの応用範囲を広げようとする研究を行っています。
 近年自動車メーカーでは、電気自動車やハイブリッド自動車の蓄電技術に力を入れています。私は、これまでの研究が活かされて、自動車メーカーから就職内定をいただきました。今後は電気自動車やハイブリッド自動車に組み込まれる蓄電デバイスの研究に携わっていきたいと思います。自動車業界では、高容量、小型軽量、長寿命、安価で安全な蓄電デバイスが求められています。蓄電デバイスに関する開発競争は、世界的に激しくなっています。蓄電デバイスの研究開発を通して日本の自動車産業の発展に貢献していきたいと思います。

大学院理工学研究科 数理・電気電子情報学専攻 電気電子工学コース 2年次
藤原 宏晃 さん

 リチウムイオン電池やリチウムイオンキャパシタなどリチウムイオンを用いる蓄電デバイスにおいて、もみ殻炭をマイナス極に使用した場合、どのような性能が発現するのかという研究を行っています。
 近年、再生可能エネルギーへの需要が高まってきています。火力発電や水力発電は、あらかじめ需要と供給に見合った発電ができるのですが、太陽光発電のような再生可能エネルギーは天気の影響が大きいため、電力の需要と供給のバランスを崩してしまう可能性があります。その技術的な課題に対処するため、電力会社は再生可能エネルギーを一時的に貯蔵する大型蓄電システムの開発を進めているところです。その大型蓄電システムにおいては、リチウムイオン電池が多く利用されます。実際、福島県南相馬市の変電所において、リチウムイオン電池を用いた大型蓄電システムが実用化されています。就職内定をいただいた電力会社においても、蓄電システムに関わっていきたいと思っています。電力の貯蔵は、未来の電力の安定供給に重要な技術になります。これまでの経験を活かして、社会の役に立つように仕事をしていきたいと思います。

(取材:広報課)
※掲載内容は取材時点のものです

大学院理工学研究科
数理・電気電子情報学専攻 電気電子工学コース
教授 熊谷 誠治 Seiji Kumagai
  • 秋田大学 鉱山学部 電気電子工学科 1995年03月卒業
  • 秋田大学 鉱山学研究科 電気電子工学専攻博士前期課程 1997年03月修了
  • 秋田大学 鉱山学研究科 システム工学専攻博士後期課程 2000年03月修了
  • 2009年10月 秋田わか杉科学技術奨励賞
  • 2016年9月 日本学術振興会 科研費 平成28年度審査委員表彰
  • 秋田大学 熊谷研究室