秋田大学研究者 益満環准教授

Lab Interview

地域マーケティングで救う、2040年の秋田

消滅する可能性が高い自治体は秋田県?

 3年前まで宮城県石巻市に住んでいた益満准教授。25年ぶりに地元である秋田県に帰ってきました。かつての秋田駅前は肩がぶつかり合うくらいの人出でしたが、現在の人通りの少なさに驚き、賑わいの無さを深刻な問題に感じたそうです。
 「2014年、日本創成会議という民間の会議で『2040年には大潟村を除く、多くの県内自治体が消滅する可能性にある』という話がありました。当時、私は石巻で教員をしておりましたが、大切な生まれ故郷に対し非常に強い危機感を持ったことを覚えています。秋田大学に赴任したことを機に、秋田が衰退しないように地域を活性化する地域プロデューサーをたくさん生み出したいと思っています」

 研究室には『東北地域ブランド総選挙最優秀賞』の盾が掲げられています。このコンテストは、2019年に特許庁と東北経済産業局が主催し、東北地域の大学生が地域団体商標権者を取材し、取材に基づく地域商品やサービスの魅力をInstagram上で発信するとともに、今後の新商品や新ビジネスのアイデア、PR方策等を競い合う大会です。
 益満准教授は学生3名と横手やきそば暖簾会理事長の三浦勝則氏とでチーム横手やきそばを結成し、この大会に挑みました。この大会は東北地域の大学から18チームが参加し、チーム横手やきそばは「横手やきそばが美味しい理由(ワケ)」と題して、横手やきそばの歴史や特徴、創始者の郷土愛を受け継ぐ9名の匠たちを紹介しました。
 また、横手やきそばの魅力をより多くの人に広める施策として「横手やきそば大学の開校」というビジネスアイデアを収支計画や横手市の宿泊業や観光業に与える効果も含めて提案し、見事、チーム横手やきそばが最優秀賞を受賞しました。
 益満准教授は大仙市出身ということもあり、この大会での受賞をきっかけに翌年から大仙市をPRすることになったのです。

日本酒で大仙市をPR!

 大仙市には大曲の花火の他、さまざまな特産物や文化財がありますが、日本酒も有名で、大仙市だけでも7つの酒蔵があります。同じ地域内にここまで多くの酒蔵があることは珍しく、大仙市の強みでもあります。益満ゼミではそこに着目し、大仙市の酒蔵のPRを通じてマーケティングについて学ぶことを目的とし、秋田清酒株式会社と大仙市と産学官連携のもと、益満ゼミの学生たちによるオリジナルの日本酒づくりに取り組んでいます。
 「プロモーションの目的は、企業または製品の認知拡大と、購買の動機づけです。今回は酒米づくりからスタートし、ターゲットの選定や販売方法まで、ゼミ生がプロデュースしています。たとえば、茶色や深緑などの濃い色の瓶はお酒の品質を保つことに向いているのに対し、赤や水色などのカラフルな色の瓶は、見た目に惹かれて手に取ってもらえる傾向にあります。また、お客さんの商品選びは3秒(知覚の選択性と言います)で決まるため、デザイン性に富んだ魅力あるパッケージであるかが売れ行きを大きく左右します」
 このようにただお酒をつくるだけでなく、売り方まで責任を持つことによって作り手に愛着が湧いてきます。愛着が湧くとゆかりのある街や企業の商品やサービスを購入するようになるという好循環を、マーケティングらしく生み出していきたいと益満准教授は話します。

大仙市の広報誌にも取り上げられている

 大仙市のPRに学生が加わった結果、今まで市報だけだった広報のやり方が大きく変化し、Instagramの活用やFMラジオ番組の出演まで活発に広がったといいます。
 「学生はSNSで情報を発信することが得意で拡散力もあります。Instagramは若い人がターゲットですし、ラジオは高齢者が聞いています。また、Instagramは自らが情報を集めに行かないと欲しい情報に辿り着けませんが、TVやラジオ、新聞は強制的に情報を伝えることができます。大切なのはターゲットに合わせた媒体を取捨選択することです」
 今回のPR活動では、特にラジオと新聞から多くの反応があったそうです。さまざまな取引先から電話での問い合わせがあり、ある酒蔵の経営者から反響が大きく商品が売れているという連絡をいただいた時は、これまでの学生たちの活動が日本酒の売り上げにつながり嬉しかったと話します。そしてコロナ収束後は、秋田県内の他、国外での販売も視野に入れて活動するそうです。

ただ良いものを作るだけでは売れない時代

 益満ゼミでは、宮城県登米市におけるシティプロモーションサポーターとして、登米市の知名度アップに貢献しています。登米市は約8万人の自治体ですが、PR動画がアジア最大級の国際短編映画祭で大賞を受賞した「登米無双」や郷土料理「はっと汁」のフェス開催など、シティプロモーションに大変注力している自治体です。
 2011年3月の東日本大震災の影響で、被災三県にある自治体は厳しい状況に置かれており、財政破綻の危機に瀕している自治体も少なくはありません。そこで、国からの予算だけに頼らず、自治体の力で稼げるようになろうと考え、登米市はこのようなプロモーションに約6年もの間、地道に尽力してきました。
 ヒトやモノだけでなく、街そのものを売り出していく。これをシティプロモーションといいます。その結果、登米市は今春からスタートしたNHK朝の連続ドラマ小説「おかえりモネ」の舞台に抜擢されました。かつて岩手県三陸沿いを舞台に大ヒットしたテレビドラマのように、大きな経済効果が期待できます。
 「県外の自治体は、『稼がないと潰れる』という危機意識が非常に強いため、登米市のように結果も残しています。もちろん秋田県内の自治体も頑張っていますが、産学と連携しながら生き残りをかけてもっと知恵を絞ってほしいと思います」

 たとえばその一例として、横手やきそばはイスラム教徒にも食べてもらえるようにハラール(イスラムの教えに則った方法で加工したもの)対応の横手やきそばを提供しているお店もあります。また、メニューも外国語表記に対応しています。
 「なぜそこまでするのかと思われそうですが、そこまでして国内外に売り出さなければ、今後生き残っていくことはできません。日本酒に関しても国内市場はすでに飽和状態のため、私がアメリカに居た時のご縁を活用させていただき、どうやってアメリカに大仙市産の日本酒を売り込むか、ということも考えています。日本の商品は品質が高いことで有名ですが、ただ良いものを作るだけでは買ってくれません。この世に商品はあふれかえっています。日本の商品やサービスは消費者を引き寄せる魅力やポテンシャルは十分に持ち合わせていますから、あとはその良さをどううまく伝えるかをよく考えて実践することが重要です」
 そもそもマーケティングとは、黙っていても売れる仕組みを作ってしまうことだと益満准教授は語ります。自治体ももはや倒産する時代であり、マーケティングの視点でいかに稼ぐかを真剣に考えなくてはならない時代なのです。

地域プロデュースで秋田を活性化する

 益満准教授の地域マーケティングによる実践は、日本酒づくりにとどまりません。
 「秋田にはいろいろな魅力がありますが、十分にその魅力を発信しきれていません。私はこの研究が自分に課せられた責務だと考え、秋田が衰退しないよう引き続きマーケティングの視点で学生とともに故郷秋田を盛り上げていきたいです」
 公務員志望が多い地域文化学科ですが、益満ゼミの学生には民間企業で研究を活かした地域プロデュースを行いたいという声が多く、誇らしそうな益満准教授。
 「研究の成果が単なる座学で終わることなく、それが街づくりに反映されて地域がもっともっと発展したらとても嬉しいことですね」
 『2040年には大潟村を除く、多くの県内自治体が消滅する可能性にある』という予測が外れるよう、益満准教授は大学の研究だけに留まらず、これからの地方を支える地域プロデューサーの育成に努めます。

研究室の学生の声

菊地 菜央 さん

 地元に根ざした地域課題の発見・分析をするだけでなく、課題の解決に向けた実践まで行えることが地域文化学科の強みだと思っています。益満先生のマーケティングや消費者行動などの講義を受けた際、企業や自治体の目線から消費者について考えることが新鮮で面白かったことが、益満先生のゼミに入ったきっかけです。
 秋田のように活性化に悩んでいる地域は他にも存在すると思いますが、秋田は特に厳しい環境だと言われています。そのため他の地域で地域活性化に携わる際にも、そのような経験がより活かせるのではないかと思います。
 地元の魅力を、誰に、どう伝えるかという研究を通して地域活性化に携りたい方は、ぜひ秋田大学の地域文化学科で一緒に研究しましょう。

山田 美玖 さん

 学生が主体となり、企業と連携した実践的な活動を通して様々なことを学べる学科は地域文化学科だけです。私は若者の目線からアプローチして地域に根ざした課題に取り組みたいと思っていたため、益満先生のゼミに入りました。やりたいことや興味のあることについて気軽に話しやすく、小さな疑問でも解決するために外に出て探求することができる研究室です。
 秋田県は人口減少や高齢化など地域経済縮小に関する課題が多いものの、蓋を開けてみると地域活性化を目指した取り組みを積極的に行っていて、元気に頑張っている人が多いなと感じました。ゼミの中には元から日本酒が好きという学生もいますが、普段から日本酒に馴染みのない学生もいました。しかし、取材の中で商品が形になるまでの経緯を知ってから味わったときは感動さえ覚え、みんな日本酒が好きになりました。研究を通して、ものづくりはとても楽しいしワクワクすると改めて気付かされました。

(取材:広報課)
※掲載内容は取材時点のものです

教育文化学部地域文化学科
地域社会・心理実践講座 地域社会コース
准教授 益満 環 Tamaki Masumitsu