「小中学生の学力トップ」の秋田から発信する「探究型授業」

秋田の子どもの学力が高い理由とは?

 「授業の最初にめあて・課題を決める。ひとりで考えた後、班や学級全体で意見交換をして、授業の最後に、まとめ・振り返りをする」
 秋田で生まれ育った人たちには、当たり前のような授業風景ではないでしょうか。積極的な子、引っ込み思案な子、周りと違う意見を持った子。そんな個性豊かな児童・生徒たちの意見を、先生はしっかりと聞いてくれて、どんな意見も決して切り捨てることはありません。
 いわゆる「全国学力調査」でトップクラスを誇る秋田の小中学生の高い学力の理由は、このような児童・生徒主体の授業、「探究型授業」にあったようです。

 阿部昇教授の研究テーマは国語科教育と授業研究。秋田の小中学校教育には、集団学習や学び合いを中心とした授業形態が昔から定着していました。阿部教授はPISA(Programme for International Student Assessment)で重視されている読解力=「PISA (ピザ)型読解力」の研究を進めています。評価的・批判的な読解力を育てるための指導方法、そして子どもが主体となって対話を進めていく「探究型授業」を展開するための指導方法を研究しています。

※PISA
OECD(経済協力開発機構)が進めている国際的な生徒の学習到達度に関する調査

批判的に読む力が育てる、真の国語力


阿部教授の著書

 阿部教授の研究には「国語の授業で読む力を育てるための研究」「授業研究」「学力向上研究」の3つの柱があります。
 1つ目は「国語の授業で読む力を育てるための研究」です。
国語は、「読む」「書く」「話す・聞く」という3つの大きな分野からなる教科です。その中でも阿部教授が注目しているのは「読む力」を育てること。授業で物語や小説を扱っても「感動しました」だけで完結してしまい、果たしてそれでどんな国語力が付いたのか?という授業もあるそうです。もちろん文章を楽しく読むのは大事ですが、同時に確かに読む力を育てないと困るのです。 阿部教授は、小学校低学年から中学校・高校までそれぞれの学年にあった「読む力」の育て方を、学生向け・教員向けに具体的に示しています。
 2000年からOECDは、PISAをスタートしました。そこでは『批判的に物事を見る力』を重視した問題が用意されています。例えば提示された2つの異なる意見を基に「あなたはどちらの意見に賛成ですか?その理由を文中の言葉と自分の言葉を使って答えなさい」というような問題。また算数・数学においても「このグラフはこのように解釈されていますが適切ですか?適切ではないですか?その理由を書きなさい」というような、主体的な判断や批判的な思考を要求する問題が出てくるのです。
 当時、日本の学生は物事を批判的に読むということに慣れておらず、2003年にはPISAの結果がぐっと下がってしまいました。これは「2003年PISAショック」と呼ばれています。この現状を打破すべく日本でもPISAの研究が進み、学習指導要領も改善されてきたそうです。
 阿部教授はこの「PISA型読解力」のような批判的思考に早くから着目し、国語科教育の新たな展開を研究してきました。

目指すのは「探究型授業」の浸透

 2つ目の柱は、「授業研究」です。
 先に述べたようにPISA型読解力が求められるのは国語だけではなく、算数・数学においても、ただ解を導き出すだけでなく、何故その答えになるのかの理由を説明する力が求められるそうです。「先生が一方的に説明するような授業、指名された児童・生徒だけが発言するような授業では、十分なPISA型読解力は身に付かない。もっと児童・生徒自身が考えるような課題解決型の授業が必要だ」と阿部教授。課題解決型の授業とは、「授業の初めに先生が課題提示をし、最初はひとりで考える。次はグループで考える。そして学級全体で話し合い、またグループに戻る。最後に全体で様々な検討結果を振り返る」という授業の形態を指します。これを阿部教授は「探究型授業」と名付けました。
 県内はもちろん、年30回以上の県外講演を通じ、この「探究型授業」の全国の教育現場への浸透を目指しています。

秋田の風土、教育環境の好循環が生んだ「学力トップ」という誇り

 

 最後の柱は「学力向上研究」。秋田の小中学生の「全国学力・学習状況調査」における好成績は、他県の教育関係者からもかなり注目されていることです。その理由としては、秋田の子どもたちは熱心に授業に取り組み、先生の問いかけにも一生懸命答える傾向にあること。そして、児童・生徒主体の話し合い・対話・討論を重視する「探究型授業」の定着が、秋田の学力向上に役立っていると阿部教授は言います。
 先生方は戦略的な授業設計の上で授業にあたりますが、実際の授業内では様々な意見が出されます。それらを汲み取りながら、先に立てた設計を修正し、授業をまとめていくのです。逆に児童・生徒たちの意見が一致した時には、別の意見を出して揺さぶりをかけたりもします。秋田の先生方の力量、コーディネート力のレベルの高さがうかがえます。更に、秋田県では校内授業研修会、小中連携授業研修会、地域授業研修会などが充実しており、全国的にも先生同士の授業研究のレベルが高いことから、質の良い指導がなされているそうです。
 一人ひとりの家庭学習ノート(子どもが自分で考え自分で学ぶ力を身に付けさせることを目的としたノートで、授業の予習復習や自分で決めた課題を取り組む)に先生が書くコメントは、子どもたちのやる気向上に繋がり、家庭学習の習慣化が定着しています。
 また、昔から学校を大事にする文化が根付いているため、学校・家庭・地域の間にはしっかりとした信頼関係があります。それは、子どもたちが自然と熱心に学習に取り組むという好循環を生むことに繋がるのだそうです。
 阿部教授は「なぜ秋田の子どもたちは学力が高いのか」、秋田県と他県の比較研究を基に学力向上のポイントを研究しています。また、平成19年から都道府県ごとに置かれた「検証改善委員会」の委員長としても、全国学力・学習状況調査の結果の分析をしています。

最先端の教員養成で身につける「質の高い教師力」


阿部教授が編集をしている国語教科書

 秋田大学教育文化学部と教職大学院では、教員養成において、どのような授業づくりをすると子どもに力が付くかということを丁寧に指導しています。また附属小学校、附属中学校は教育実習を行える環境にあるので、学生は実際の「探究型授業」や授業研究を自分の目で見て学ぶことができます。
 最後に「私たちも最先端の教員養成をしているという自負があります。秋田大学では『質の高い教師力』を身につけて卒業できます。秋田県内はもとより、他県からもぜひ入学していただきたいですね。卒業後は学力向上の取り組みや共同研究で学んだことを地元に持ち帰ってもいいですし、教職大学院への進学も良い道となるでしょう」と阿部教授から、未来の先生に向けたあたたかいメッセージをいただきました。

教員を目指す方へメッセージ

教育文化学部 学校教育課程
教育実践コース 4年次
鈴木公貴さん

 秋田大学に入学して感じた事は、先生との距離感が近いということです。自分がなりたい将来像をきちんと持っていれば、先生方がきちんとサポートしてくれます。私は今、潟上市の助成事業「寺子屋てんのう」で教育支援のボランティアをしています。

大学院教育学研究科
教職実践専攻 2年次
鎌田貴文さん

 教職大学院1期生として、より専門的に教員の道を勉強しているところです。大学4年間阿部先生の元で勉強して、教科の奥深さを知り、教員を志そうと思いました。高校生の皆さん、まだ具体的な将来像を見つけられていなくても、大学4年間でひとつひとつ学習を積み重ねていけば、それは徐々に見えてくるものだと思います。

(取材:広報課)

大学院教育学研究科 教職実践専攻
教授 阿部昇 Noboru Abe

 専門は国語科教育学、授業研究、学力研究。
 秋田県検証改善委員会委員長、秋田県NIE推進協議会会長、日本教育方法学会常任理事、全国大学国語教育学会理事。県内外の小中高の先生方と一緒に授業研究を進めています。
 著書に『アクティブ・ラーニングを生かした探究型の授業づくり』『国語力をつける物語・小説の「読み」の授業』『文章吟味力を鍛える』(以上、明治図書)、『頭がいい子の生活習慣―なぜ秋田の学力は全国トップなのか?』(ソフトバンク・クリエイティブ)などがあります。