Lab Interview

環境保護の視点からの資源開発 ~既存の鉱山がもたらす副産物「レアアース」~

人々の暮らしに必要不可欠な「レアメタル」と「レアアース」とは?

 「レアメタル」や「レアアース」。数年前、その重要性や価格の高騰がメディアで取り上げられてからは一般的にもよく見聞きする言葉になりましたが、具体的にはどのような物質なのでしょう。

元素の周期表

 「レアメタル」とは、その名の通り「希少な金属」のこと。地球上での絶対量が少ない、もしくは採掘と製錬が困難であるにも関わらず、国際的に安定的な供給が必要とされる金属のことです。そしてその中の17つの元素グループが「レアアース」と呼ばれています。
 レアメタルやレアアースは、私たちの身近な家電や日用品の内部に使われています。例えばパソコンやテレビの液晶にはインジウム、LED電球にはガリウム、カメラのレンズにはランタン、電池にはリチウムやコバルト。他にも医療機器(MRI等)や風力発電、ハイブリッド自動車など、人々の文化的かつ豊かな暮らしに、レアメタルやレアアースは必要不可欠なものとなっています。このように多くの資源が必要とされる中で、日本ではかつて栄えた鉱山はほぼ閉山となったため、自国での供給源がなく、手に入りづらい現状であると渡辺教授。
「皆さん、鉱山というと暗く古いイメージを持たれると思いますが、今やレアメタルやレアアースといった、新しい可能性を秘めた分野への広がりを見せています。現在、人類が利用している元素は80種類ほど。今まで限られた元素のみを使ってきましたが、昨今の先端技術の発展に伴い、多種多様な元素が必要になったのです。そのような元素がどこに行けば見つかるのか、世界中の地質と資源を調査しています。」

 渡辺教授の専門は鉱床学。鉱物や鉱床がどのような過程・条件で形成されたのかを、野外での地質・鉱床調査や顕微鏡等を用いての観察・化学分析を基に研究する学問です。特にここ10年ほどは、北はグリーンランドから南は南アフリカまで、全ての大陸の地質・鉱床調査へと赴き、得られた知見を活用して日本独自のレアアース供給源の発見を目指しています。

強力な磁石の原料 - ユージアル石 -

 渡辺教授が手に持つ「ユージアル石」という鉱物(右写真)。この美しいピンク色の石には、5~10%のレアアースが含まれています。ユージアル石はとても珍しい鉱物で、カナダ、グリーンランド、スカンジナビア等での採掘が可能です。写真のものはカナダのオンタリオ州で採取したそうです。
 ユージアル石に多く含まれるのは、磁石の材料となるレアアース。鉄の磁石の10倍という磁力の強さです。強い磁力は、電子機器の小型化を実現すると言います。例えば携帯電話のバイブレーション機能。あんなにも小さな箱の中で、きちんと機体を震わせることができるのは、このような小型で強力な磁石がモーターに使われているからこそだと、渡辺教授。このように、私たちを取り巻く最先端技術は、レアアースによって支えられています。

既存の鉱石から採れる副産物 - アパタイト -

 渡辺教授が今一番注目しているのは「アパタイト」という鉱石です。リンを抽出し窒素とカリウムを混ぜることで、農業用肥料がつくられます。世界中で広く産出されているため、特に珍しい鉱石ではありません。

薄茶色の鉱石(左)がアパタイト。歯磨き粉の成分としてよく知られている。

 そんな中、渡辺教授が狙うのはアパタイトに含まれる数パーセントのレアアース。今まで肥料に使われていたのは不純物の少ない綺麗なアパタイトでした。しかし良質なものは掘り尽くされてしまい、不純物の多いアパタイトを使わざるを得なくなっています。アパタイトにはヒ素やカドニウムといった、有害な元素も含まれています。それらをしっかり取り除いて肥料をつくらなければ、農地汚染という結果を招きます。これからの資源開発において、環境保護という視点からでも、不純物の除去は非常に大切な工程であると、渡辺教授は言います。

 世界のレアアースの年間需要量は約15万トン。そして世界中で生産されているアパタイト中のレアアース総含有量は、年間30万トンにも及びます。もし全てのアパタイトからレアアースを採り出すことができれば、年間需要量の2倍ものレアアースを確保できるということになるのです。
「資源開発イコール環境破壊というイメージを持たれると思いますが、レアアースはハイブリッド自動車のモーターや大型の風力発電など、環境にやさしい製品にも使われているのです。例に挙げたアパタイトのように、既存の鉱山で現在採掘中の鉱石からレアアースという副産物を取り出すことを目指し、環境保護に貢献していかなくてはなりませんね」と、資源開発者も環境へ配慮する心が必要だと渡辺教授は声に出して言います。

リサイクル産業で生き続ける、小坂製錬の精錬技術

 かつて秋田県は、黒鉱の採掘が非常に盛んでした。当時秋田県の北部に存在した小坂鉱山、花岡鉱山等の鉱山だけで、5,000万トンもの黒鉱を産出したそうです。
 黒鉱は亜鉛、鉛、銅などの多種類の金属資源を含むとともに、不純物も多く製錬が困難な鉱石です。小坂鉱山は1990年代、銅鉱石の枯渇で閉山を余儀なくされました。しかし、長い鉱山の歴史の中で培われた製錬技術は、現在の小坂製錬株式会社の主軸であるリサイクル産業へと、しっかりと受け継がれています。鉱石の中に含まれる様々な元素を選り分ける技は、複雑な金属組成の黒鉱を扱ってきた功績の賜物と言えます。
 小坂製錬の金とビスマスの生産量は国内でトップクラス。これらは鉱山からの発掘ではなく、使用済み携帯電話やパソコンの基板、スクラップ等のアーバンマイン(都市鉱山)をリサイクルして得られた生産量です。世界をリードしてきた秋田県の鉱業技術は、形を変えて今も生き続けています。

いつまでも忘れない、最初に感じた好奇心と発見したときの喜び

 もともと地球科学について学んできた渡辺教授は、以前は鉱山にそれほど興味があったわけではないと言います。最初の就職先は、工業技術院(現:国立研究開発法人産業技術総合研究所)の地質調査所。北海道支所の鉱床課へと配属され、山中での調査に明け暮れる毎日。ある日、川底でキラキラと光るものを発見しました。それは硫化鉱物の塊、黄金色に輝く「黄銅鉱」だったのです。「なぜ、こんな川の中に?」という驚きとともに、自ら鉱石を発見する喜び・感動を覚え、現在の研究の道へと進みました。

鉱業博物館に展示されている「黒鉱」

「資源調査はとても楽しいです。世界中どこへでも行けるし、未知の領域との出会いがあります。美しい鉱石や岩石がどこに眠っているんだろう、どのように生成されたのだろう、と考えを巡らせて解明していくのは、とてもワクワクするものですよ」と、自らがこの道を志した日の事を思い起こします。

海外資源フィールドワークで、大学生活で一番の経験と思い出を

 国際資源学部では、1・2年次のI-EAP(集中大学英語)の授業で英語の基礎力を磨き、3年次からの専門教育科目の授業はすべて英語で行われます。また、海外での約4週間に渡る資源学実習「海外資源フィールドワーク」を3年次の必修としています。

海外資源フィールドワークの様子

 渡辺教授は南アフリカ共和国への実習を担当しており、2016年には9名の学生を同国へ引率、その間数千キロもの距離を車で移動して国を廻りました。ヨハネスブルクのウィットウォータースランド大学を訪問し、現地の先生から日本の学生たちに向けて講義をしていただいたり、現地の鉱山に潜ったりと、普段はできない貴重な経験を積むことができる、有意義な実習内容です。

 現地の人たちとの異文化コミュニケーションや豊かな自然の中で起こるハプニングを通じ、日本で味わえないような経験をした学生たちは、帰国する頃にはひと回りたくましく成長していると語る、渡辺教授。卒業前の学生たちに大学生活での一番の思い出を尋ねると、口を揃えて皆「海外資源フィールドワーク」と答えるほど、心に残る魅力的な出来事が待っているようです。

海外資源フィールドワークの様子

「南アフリカ共和国以外では、いつかトルコに行ってみたいですね。今は治安情勢が厳しく、学生を連れての実習は難しいですが、トルコの方はとても親日的ですからね。来年の実習の行き先はチリにしようかなと思っています。南は観光地ですが、北の方は砂漠と銅の鉱山が多く分布しているんです」と、来年のフィールドワークに向けても渡辺教授は意欲を燃やしていました。

研究室の学生の声

大学院国際資源学研究科 資源地球科学専攻 1年次
左部 翔大 さん

 今はものが溢れた豊かな時代ですが、便利な製品の原料の多くは地中から掘られています。それが採出されて初めて自動車やコンピュータがつくられます。この素晴らしい時代を支える縁の下の力持ちのような鉱物という存在に気付き、どこで、どのように生成されるのかを調べたいと思いました。
 国際資源学部は、素晴らしい先生方が手取り足取り教えてくださるので、私は大学院への進学を決めました。資源学、地質学のしっかりとした教育を受けることができますので、「石好き」の方は是非目指してみてはいかがでしょうか。

国際資源学部 資源地球科学コース 4年次
北村 未佳 さん

 高校生の頃、日本近海でメタンハイドレートが採れるというニュースを見たことがきっかけで、資源学に興味を持ち、国際資源学部が新設された年に入学しました。海外実習の環境が整っていたことも、入学を決めた理由のひとつです。
 1・2年次に基礎的な大学英語を学び、3年次からの専門教育科目授業は英語で行うので、毎日英語に触れることができます。資源学も英語も素晴らしい先生がたくさんいらっしゃるので、英語が苦手な人でもしっかり勉強すればついていけると思いますよ。

(取材:広報課)
※掲載内容は取材時点のものです

大学院国際資源学研究科 資源地球科学専攻
教授 渡辺 寧 Yasushi Watanabe
  • 北海道大学 理学部 地質学鉱物学科 1982年03月 卒業
  • 秋田大学高大接続センター広報推進部門長
  • 日本希土類学会 塩川賞 受賞(2017年05月15日)
  • 鉱物資源・テクトニクス研究室ホームページ
    http://www.gipc.akita-u.ac.jp/~yasushiwatanabe/