秋田大学研究者 三角 樹弘教授

Lab Interview

理論物理で紐解く、たった一つの方程式から成る自然の真理

数学の力の可能性

 三角先生は「理論物理」と言われる分野を専門とし、その中でも、数理的な手法で物理を行う数理物理や、宇宙の基礎を調べる「場の量子論」や「素粒子」について研究をおこなっています。
 「小さい頃、宇宙飛行士になりたかったのですが、当時は月までしか行くことができませんでした。仮に火星まで行けたとしても太陽系自体が宇宙の中でも端にあるので、銀河のスケールからいうと末端の一点のことしかわかりません。ところが、数学と理論物理を使うと、宇宙が形成されてから何年経っているかや、宇宙の始まりから終わりまでも分かるといいます。一点が分かれば全体が分かるという魅力と、宇宙のことや自然に関することが幅広く分かるということも魅力的に感じ、数学を勉強し物理を学ぼうと思いました」
 地球上で起こっていることよりも更に多くのことを理解したいという気持ちで数学を研究しているという三角先生。それは一体、どういうことなのでしょうか。

量子論で宇宙の予言ができる!?

 量子論には、私たちが普段見ている世界と概念的に全く違うものの見方をしている古典力学やニュートン力学という世界があると、三角先生は語ります。
 「例えば、古典力学では空を飛んでいるときのボールの位置を表す場合、二次元空間ではx軸とy軸、三次元空間ではx軸・y軸・z軸を使うことによって位置が分かります。
 初期条件として「ある時間0(t=0)」で、xがx0という位置にあり、速度がv0という状態にあることが分かっていた時、コンピューターにインプットするように当てはまる方程式があります。中でも、ニュートンの運動方程式は『F=MA』つまり、『力を加えると質量に反比例して加速される』という力を質量で割ったものが加速度になるという方程式です。このルールに従うと、初めの状態が分かっていれば任意の好きな時間(t)のボールの位置(x)や速度(v)が分かるという世界なのです」
 実際には、ある時刻で完璧な精度で位置を理解することは不可能なのだそうですが、量子論は極端に言うと世界や宇宙全体の全ての物質の位置と速度が分かれば「10秒後、それはどこにあるのか」ということや「1万年後、どこにいる」ということの全てが予言できてしまう学問なのです。

ミクロ(小)・マクロ(大)の世界観

 20世紀の初頭、量子論の世界では、ボールがある事実は変わらないが、「ミクロの世界で成り立つもの」と「マクロの世界で成り立つもの」というように大きさに違いがあることが分かってきたと言います。古典力学的なものの見方というのは「正しくない」ということが分かってきたのです。この見方は、人間が見るようなスケールでマクロの世界に行くと、近似的にミクロの方が全て正しくなるという見方です。世界は量子論で記述されていますが、微妙なズレがあります。しかし、私たちが生きている世界では、そのズレに気付かないほど小さな領域だといいます。
 ミクロの世界よりさらに小さいナノスケールという世界でも同じことが言えます。古典力学的な物の見方が間違っている訳ではありませんがこのような近似的な見方も人間のスケールでは正しいということになるのです。では、なぜミクロの世界では量子論的な見方をしなければいけないのでしょうか。
  それは、そもそもボールが「ある場所にある」という概念自体が既に正しくないからです。例えば「ボールがどこかにあります」という情報が入っている箱があるとします。それはボールがx1・x2・x3というところにあるという状況の重ね合わせで表現されています。つまり、ここにボールがあるというのは幻想でx1にもx2、x3にも存在していることになるのです。「何を言っているのだろう?」と思うかもしれませんが現実はこのようになっていて、この現象が如実に表れていくのがミクロの世界です。
 「そんなことはおかしい。我々が見ているものはいつでもここにあるし、我々の体もここにあるというのが分かっているはずだ」という方もいると思います。しかし、正確には「ここにある確率が非常に高い」という言い方のほうが正しいのです。この人は非常に僅かに向こう側にも、あちら側にも存在している訳ですが、あまりに確率が低いので、滅多なことが無い限り「ここ」にしか観測されない、ということになっています。ミクロの世界へ行くと、このように関係性の表れ方が変わってくるのです。

真実はたった一つの方程式

 「最も基礎的だからこそ、いろんなものに繋がります」と話す三角先生。使っている数学は、幾何学や代数学、微分積分など、高度なものですが三角先生は難しいことを子どもでも分かるように説明できる真理を見つけたいのだと言います。
 「物理学というのは一番最初にできた化学です。物理学の方法をそのまま適応して化学や生物学が発達していきました。『やればやるほど簡単になる』と紐解けば、宇宙の真の理解についても最終的には非常に簡単なたった一つの方程式や法則だということにたどり着きます。一個のある何かがあり、それがいろんな姿の違う別のものであって、実は素粒子一個だけ。真の現象は一個だけで、それを支配している方程式も一個だけ。それを支配している原理も一個だけで、そこから双発して様々なものができているだけなのです。『やればやるほど、理解すればするほどクリアになって、美しくて簡単なものが見えてくる』というのが醍醐味です」

好きを極めて自分の力に

 三角先生の研究室は、自然に興味があり、特に根本的な部分や原点に興味があるという人にはおすすめなのだそうです。数学が大好きだけれど、その数学がどこでどのように応用されているのか、一番格好良く応用されているところで使ってみたい、という方には是非来て欲しいと話します。
 「秋田大学には、かなりバラエティに富んだ先生と分野があると思います。高校三年生の皆様は何かやりたいことがあっても時間が経ったら変わるかもしれないし、大体は決まっているけれど、細かく何をやりたいかは決まっていないことが多いと思います。そういう方こそ、秋田大学のような間口の広いことをやっている大学で勉強して、やってみたいことを決めるのがおすすめです」
 数理コースは単純な数学、純粋数学、理論物理と計算機械、コンピューターサイエンスなど同時に学ぶことができます。そして3年生の後期にその中から面白いと思ったものを選択できるので、『なんとなく数学に興味がある』『コンピューターに興味があるし数学にも興味がある』など幅広く関心を持つ人は、充実した勉強ができることでしょう。
 三角先生はさらに「数学は大きく幾何学、代数学、解析学の3つの分野に分かれるのですが、ここでは全て使用し、且つ最新のものも沢山使っているので、非常に楽しめると思います。チャンスがあったら是非来てください」と続けます。
 数学や基礎物理というものは、一番基礎的なことを理解し、そこから情報を広げることで様々なものに応用ができます。こういった作業もまた、社会に役立つ強みになると信じ、三角先生は今後もあらゆる角度からたった一つの方程式を導いてゆくでしょう。

学生の声

大学院理工学研究科 数理・電気電子情報学専攻 数理科学コース 2年次
湯本 純さん

 元々数学に興味があったのですが、数学をやる上で物理というのは数学に具体的な事例を与えるので、どちらもこれからの科学に必要だと思い、このコースを選びました。
 研究で一番面白いことは、0からものを作ることです。苦しい時もあるのですが、今まで誰もやったことがないことを成し得た時の達成感は人一倍あると思います。他の人は知らない、自分だけが知っていることがあるというのがとても楽しいです。将来は、研究者として活躍したいと思っているので、たくさん知識を身につけたいです。
 このコースでは、数学の高校教員免許を取得することができるので、数学教員として専門的な知識を教えたいという人にはお薦めです。数学や物理という分野は難しい印象もあるかと思いますが、違う視点でいろんなものが見えてくるところがこのコースの一番の良いところだと思うので、ぜひ一緒に学びましょう。

(取材:広報課)
※掲載内容は取材時点のものです

大学院理工学研究科
数理・電気電子情報学専攻 数理科学コース
講師 三角 樹弘 Misumi Tatsuhiro
秋田大学研究者 三角 樹弘講師
  • 東京大学 理学部 物理学科 卒業
  • 京都大学 理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻 博士課程 修了
  • 【所属学会・委員会等】
    秋田県高エネルギー加速器技術研究会、素粒子論グループ、日本物理学会ほか