秋田大学研究者 石川隆志教授

Lab Interview

出逢いが結びつけてくれた、地域密着型研究

三種町上岩川地区の健康増進に関する研究

 秋田大学医学部保健学科では、教授や学生が地域の医療機関や市町村と積極的に連携し、様々な体験型学習、地域連携演習を行っています。その取り組みのひとつに石川教授が中心となって取り組む「三種町上岩川地区の健康増進に関する研究」があります。

 三種町上岩川地区は、三種町南東部房住山の山裾に広がる山間地帯。人口減少と少子高齢化が進む、いわゆる過疎集落です。2009年、ふるさとの衰退を食い止めるべく立ち上がった地元高齢者たちによる「房住里の会」が発足。地域の元気づくり活動を続けてきました。しかし高齢化が著しく、自立的安定的な仕組みに仕上げるにはもう少し頑張りが必要だったと言います。そこで、住民が充実感をもって暮らせる高齢社会を構築するために、これまで住民たちで進めてきた取り組みを強化し、「絆と健康と農業」を柱とした三種町上岩川地区の自立再生事業がスタートしました。
  この事業立上げには、秋田県立大学生物資源科学部の荒樋豊教授が当初から尽力されてきました。荒樋教授を通じて三種町と石川教授との関わりが始まり、房住里の会会長の岡正英氏と出逢ったと言います。岡氏から「心身の健康意識の醸成面でのサポートと研究」の依頼を受け、三種町上岩川地区の自立再生事業での調査研究が始まりました。

高齢者の生活リズム調査とフィードバック

 房住里の会からは、「調査研究には協力を惜しまない」「学生にも参加してもらい、地域の高齢者と交流をしてほしい」という2つの要望があったそうです。
 まずは2013年10月、作業療法学講座の学部生と院生、教員を引き連れ、上岩川地区で健康講座を開きました。その後は学生による生活時間構造の聴取、心身機能や生活状況に関する生活リズム調査へと進みました。地元高齢者の前日の行動を30分刻みで聴き取り、ADL(日常生活活動:食事、排泄、入浴など)に関係するもの、仕事、余暇、休養に関係するものに分類します。併せてIADL(手段的日常生活活動:家事全般、預貯金の管理、買い物など)を評価します(老研式活動能力指標)。そして社会との関わりがどのくらいあるか評価(社会関連性指標)し、生活リズム質問票を用いた生活リズムの評価と、連続的携行型行動量計による1週間の活動量測定から、生活リズムの総合的評価を行いました。

実習の様子

 「今まで健康増進に関心が低かった住民の方でも、作業療法士の提案により活動的になり、健康観も上がったという話はあります。しかしその人に効果的だったことが他の人にも当てはまるとは限りません。一人ひとりの生活の様子も聞きながら、質と量の両面から評価します」
 生活リズム調査で得られた評価結果や行動量計のデータは参加住民にフィードバックされます。自分の心身の状態を知ることは健康意識や意欲醸成に繋がると、石川教授らは考えます。また、昼食の際には地域の方々も集まり、郷土料理のだまこ鍋作り体験や交流会も行われました。学生にとっては普段、あまり接する機会の少ない高齢者の方々と触れ合う貴重な体験となり、地元高齢者の皆さんにとっても、若者との会話は楽しく良い刺激となったようです。

自分なりのコミュニケーションを

 2014年以降は、この活動が3年次の授業に組み込まれました。「発達・老年期障害作業療法評価法実習」では、地域在住の高齢者を対象に心身機能や社会生活機能を、日常生活などの様々な場面から評価を行い、生活支援を検討します。
 参加者は学生14~20名と教員3~5名です。午前中は住民1人に対して学生2人で評価を実施します。お昼は恒例となっただまこ鍋作り体験を楽しみ、地元の食文化に触れる機会となっています。食後は交流会として地域住民と学生が一緒にレクリエーションを実施します。レクリエーションでは、高齢者の身体的及び認知的予防を目的に、学生が企画立案した活動を実際に行ってもらいます。

 「将来、作業療法学専攻の学生の多くは、障害を持つ方を対象として仕事をすることになります。その中で『相手とお話しする』場面は必ずあります。今の学生は高齢者や障害を持つ方と話す機会が少ないです。相手の声に耳を傾け、コミュニケーションを図る中で本人の希望を汲み取り、支援につなげることは、リハビリテーションや作業療法の中では大事なことです」
 「たくさん話せるから良いとか、口数が少ないからダメということではなく、自分なりにその人との関係を築くための練習の場だ」と学生に日々伝える石川教授。たとえ話すことが得意でなくとも、自分なりのコミュニケーションの取り方を見出すことが大切なようです。大学の授業では異なる学年でチームを組んでの実習もあるため、学生間の交流は多くあります。しかし県外出身者は就職後に秋田弁に戸惑う場面も多々あり、このような秋田の高齢者との触れ合いは、大変貴重な場となっています。

参加した卒業生の声

 「学外活動をすると学生のことがよくわかります。普段の授業では見られない学生の様子を把握できることは、私たち教員にとっても意味のあることだと思います」と話す石川教授。三種町での実習を経験した卒業生3名に、当時の経験を語っていただきました。

平 彩花さん(11期生)

 はじめて会う方の評価をするときの緊張や、評価そのものの段取りや難しさを学べる良い機会でした!それだけではなく、高齢の方とお話ししたり関わる楽しさも知ることができました!

高橋 香穂さん(12期生)

 2年前に授業の一環として三種町にお邪魔しました。人口も少なく、高齢化率の高い地域です。実際に足を運び、評価やレクリエーション、だまこ作りをして交流しました。病院や施設等で行うと普通の体操(認知症予防体操)ですが、地元の会館で皆で集まって行うと多くの笑顔がたくさん見られ、脳の活性化にも繋がる良い交流だと感じました。
 秋田大学医学部保健学科作業療法学専攻では、三種町の方々との交流が先輩たちの代から現在も続いています。領域によって異なりますが、地域で暮らす高齢者の方々と交流することは、作業療法士として働き始めるとなかなか難しいことだと思います。だからこそ、学生の時にこの様な機会が設けられることは、とても貴重な経験だと今になって感じています。授業の一環のため、時間の調整が難しいと思いますが、学生のうちに何度か交流の機会があると、地域での作業療法士としての役割、あり方などを実際に感じ取れるのではないかと思います。

高橋 亜花里さん(12期生)

 現在、私は医療現場で働いていますが、それぞれの地域に住む高齢者の方がどんな暮らしをしているのかを知ることが大切だと身にしみて感じています。実習は実際に高齢者の方と接してみて、その人の生活をイメージする貴重な体験となりました。また、この取り組みは過疎化する地域の中で高齢者同士がコミュニティを作る機会にもなっており、社会とのつながりを得るきっかけとなるとても素晴らしいものだと思いました。これは秋田大学ならではの研究であり、今後の発展を期待するとともに、微力ながら力になれたらと考えています。

 「学生時代は必要な知識を吸収して技術を身に付けることを学びますが、実際に色々なことを教えてくれるのは患者さんや高齢者の方であったりするわけです。卒業生の声にもあるように、3年次の1回だけではなく、1年次の段階からこのような交流の機会を設けてみるのも良いですね。また、卒業後もサポートに入ってもらい継続していければ、地元の方々もさらに喜んでくれるかもしれません」と、石川教授は卒業生の声を受けて、今後の展望を語ります。

出逢いに感謝し、さらなる貢献へ

 また、石川教授がこの研究に関わるきっかけとなった、房住里の会会長 岡正英氏からもこれまでの感想が寄せられました。

「房住里の会」会長 岡正英氏

 秋田県立大学の荒樋先生の紹介で始まった交流も5年になったでしょうか。はじめはどんなことになるか心配なところもありましたが、案ずるより産むが易しでありました。先生達がとても気さくな方々ばかりで、最後は友達感覚でのお付き合いとなりました。
 継続して調査した結果を対象者個々に教えてくれたので、心身共に自分の現状がわかりました。良い調査をしてくれたと思っています。調査が終わったあとの学生さん達との交流や懇親は毎年楽しいものでした。だまこ作りでの交流もあり、「それが楽しくて今年も来ました」という学生さんにはこちらも嬉しくなりました。そしてその食欲にもびっくり。ご馳走のしがいがありました。
 久米裕先生の縁でタイの大学の先生が来てくれたこともありました。外国の大学の先生が我々の住んでいる所に来てくれるなんていうことは珍しいも通り越しています。ジュンサイ摘みも盛り上がりました。また、津軽谷恵先生からの提案で、大学の研究室を見学させてもらいました。一般人には縁のないところで良い経験をさせてもらい、その上、学生さんたちからも大歓迎を受け、感激しました。
 房住里の会の目的の一つに『外部の人の意見は良く聞き接触していこう』ということがあります。その意味では本当に良い機会で、貴重な体験だったと思っています。これからもムラにどんどん入ってきて、交流の機会を作ってくれれば有難いと思っています。

 房住里の会をはじめとした上岩川地区の住民たちは、自分たちが暮らす地域や自らの健康に対して意欲、関心が高いようです。高齢者の社会参画が重要視されていますが、過疎地域では地元商店が無くなったり、働く場が減少したりしているのが現状です。そんな中、上岩川地区では日本一小さい朝市の実施や、「お婆ちゃん喫茶店・里」の開業、改修したふるさと交流館に定期的に集うことで引きこもりを防止したりと、積極的に活動してきました。
 「秋田県には過疎地域がたくさんありますが、現在私たちは上岩川地区しか関わることができていません。上岩川地区との関わりを継続しながら、他の地域への貢献にも繋げていきたいと考えています。今回のような調査研究は私ひとりでできた取り組みではありません。行政や地域の方々など、様々な方のご協力とご縁があって実現できていることです」と、石川教授はこれまでの出逢いに感謝を述べています。

表情や動き、言葉から様々なことを感じ取ってほしい

 「高校生の皆さんには色んな経験をしてほしい、そして自分の身体を使ってほしいということを伝えたいです。様々な情報を自分の身体に取り入れ、周囲の環境と関わり、自己を表現しましょう。情報過多の世の中で、テキストベースの情報ばかりでは消化不良になってしまいます。周りの人の表情や動きを見ているだけでも、様々なことを感じ取ることができるはずです。身の回りで起きているリアルな感覚を大切にしてください」

 医療福祉の現場で働くにあたり、文字で得られる知識ももちろん不可欠ですが、対象者の表情や言葉からしかわからない体調の変化や心の声があるはずです。地域密着型実習での高齢者との触れ合いが、作業療法士として大切な感覚を学生たちに教えてくれるのかもしれません。

(取材:広報課)
※掲載内容は取材時点のものです

大学院医学系研究科
保健学専攻 作業療法学講座
教授 石川 隆志 Takashi Ishikawa
  • 日本福祉大学 社会福祉学部 1980年03月 卒業
  • 秋田大学 医学研究科 博士課程 2006年03月 修了
  • 医療法人明和会中通リハビリテーション病院 作業療法室 職員(医療系)1987年04月~1992年03月
  • 日本作業療法学会 1987年06月~
  • 秋田県作業療法士協会会長 1992年4月~2002年3月 
  • 同監事 2002年4月~ 
  • 日本作業療法士協会学術部長 2005年7月~20011年5月
  • 同学術部学術委員長 2011年6月~2016年5月
  • 同学術部学術委員会委員 2016年6月~
  • 同学術部学会運営委員会委員 2018年5月~
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