障害のある子どもがのびのびと生きていける共生社会の実現を目指して
周囲との関係の中で人は育つ
発達障害にはいくつか種類があり、その中のひとつに自閉症スペクトラム障害があります。自閉症スペクトラム障害は「人とうまく関わることが難しい」、「特定の強いこだわりがある」、大きくこのふたつの特徴があると言われています。知的障害がとても重く、会話によるコミュニケーションがうまくとれない子から、私たちと同じように社会に出て働いている方まで、様々な特徴のある人がいると言われています。
鈴木先生は、通常学級、あるいは特別支援学級や特別支援学校にいる自閉症スペクトラム障害のある子どもたちに共通する、「彼らがなぜ友達と上手く関わることが難しいのか」について研究を行っています。
また、秋田県社会福祉事業団の支援アドバイザーとして、週に1回県内の障害者福祉施設に通い、対応が困難な事例に対してのカンファレンスや検討会を行い、精力的に活動しています。
「誰の力も借りずに成長する人間はいません。私は『周囲との関係の中で人間は育つ』という観点を大切にしています。問題行動だと思っていたものが、実は問題行動ではなかったと周りが気づくことで、周囲の対応がすごく変わり、それによってその子自身も変わるというのを目の当たりにしています」
発達障害のある子どもは行動と気持ちがなかなか一致しない場合が多いです。そのため、周囲の環境を含めて子どもの行動にどのような意味があるのかを探っています。
障害のある子どもと保護者に、寄り添い一緒に歩んでいく
障害のある子どもたちの就学の仕方は、大きく次の4つのパターンに分けられます。
1.特別支援学校で学ぶ
2.小・中学校の通常学級にいながら、ある特定の時間だけ通級指導教室で学ぶ
3.小・中学校の特別支援学級で学ぶ
4.小・中学校の通常学級で学ぶ
鈴木先生は、「どこの学校・学級に行くという選択」は、本人のニーズと保護者の想いを最大限尊重するべきだと考えています。保護者の方から子どもの就学について相談を受ける時、「先生に決めてほしい」とお願いされることがあるそうです。
その場合、「それはできませんとお答えしています。私からはアドバイスや情報提供はできますが、やはり最後に決めるのはご両親です。どんな決断であろうと決して否定しませんし、『この選択肢しかない』とも言いません。ただ、どんなに時間がかかってもご両親が納得して就学先を決めるまで全面的にバックアップしますし、『もし学校で上手くいかないことがあったら、いつでも呼んでください。ずっと付き合っていきますから』とお伝えしています」
役に立つ情報を提供するだけではなく、子どもと保護者に寄り添い一緒に歩んでいく必要があると、鈴木先生は話します。
「多様性を認める」考え方の浸透が生きづらさを解消する
自閉症スペクトラム障害のある人は、周囲と良好な関係を築いたり、充実した社会生活を営んだりすることが難しく、このような社会性の障害を背景とする様々な問題が生涯にわたって続くと言われています。授業では、社会性を習うことはありません。それは小さい頃から友達や家族と喧嘩したり、また自分自身について悩むことを繰り返したりする中で身についていくものなのですが、彼らにはそれが難しいと言われています。
「仮に突拍子もないことを言う人がいたとします。その場にいる全員がファイティングポーズを取ってしまうと上手くいかなくなりますが、それを肯定してくれる人がひとりでもいたら、全く状況が変わるのではないでしょうか」
社会全体が多様性を認め、『いろいろな人がいて良い』という価値観が広がることを、鈴木先生は強く望みます。
問題行動の「意味」に目を向けてみる
ある施設において、作業の休み時間になると、コップの水を自分の衣類にかけてしまう利用者がいたそうです。職員からその行動をやめさせたいという相談を受けた鈴木先生。職員の中では、その利用者が周囲の注意を引くためにわざとやっているのではないかと、マイナスの捉え方をしていたようです。しばらくの間、その行動だけではなく、作業時間や送迎時の様子なども観察してみることにしました。
すると、その行動を起こす日は、逆に大きなパニックが起きていなかったことがわかりました。その行動は、職員を困らせたり、挑発したりするものではなく、実はイライラする自分の気持ちをなんとか調整するために行っていたということが分かったそうです。
「もしかしたらその利用者は、そのような意味を込めていたわけではないかもしれません。しかし、その行動を単なる問題行動として捉えるのではなく、こちら側で行動の意味を探り見出していくことにより、周囲の対応は少なからず変わっていくと思います。たとえば、赤ちゃんが泣いたとき、お母さんは『おむつかな』と予想を立て対応します。それでも泣きやまないときは『お腹がすいたのかな』と別の予想を立て対応します。このような行動の意味を探り見出しながら対応を変えていくという作業は、我々が障害者を支援する上で必要不可欠であると考えています。この利用者の場合、衣類に水をかける行動の意味に職員の方が気づいたことで、その行動をやめさせるのではなく、イライラしないための環境調整を行うという方向に支援がシフトしました。その結果、しばらくするとその行動だけではなく、大きなパニックの回数も減少していきました」
この事例で言うと、その行動をやめさせるのではなく、その行動の背景にある苛立ちを取り除いてあげることこそが支援を考える上で大切だということがわかります。障害のある人たちの思いや訴え、そしてSOSを、上手く汲み取ってあげることが重要であると、鈴木先生は考えます。
多くの出会いに刺激を受け、教師ではなく研究者の道へ
学生時代に、発達障害のある子どもとの出会いに刺激されたと話す鈴木先生。
「専門書に難しいと書かれていることが、その子はできていました。なぜこの子はできるのか、なぜ難しいと言われているのか、そのふたつを疑問に思い着目しました」
鈴木先生は、『どうしてできないのか』ではなく、『どうしてできるのか』という視点が大切で、できる時にはどんな要件が重なるのか、どんなことが必要だったのかを考え、研究を重ねてきました。
元々は特別支援学校の教員を目指していた鈴木先生ですが、研究者になりたいと思ったのは大学時代に出会った恩師の存在が大きかったそうです。子どもの幸せを願い、その実現に向けて一切の妥協を許さず教育と研究に真摯に向き合う恩師の姿に感銘を受け、『自分も同じ志を持って目の前の子どもと向き合っていきたい』と思い、研究者の道へ進むことを決めました。
障害のある子どもが生きやすい地域をつくっていきたい
「障害特性を解明したところで、当事者の生活が豊かになるわけではありません。私の研究が社会に還元されるためには、多様性を認める社会を作っていかなければなりません。いろいろな特徴のある子どもたちが成長して大人になっても、のびのびと生きていける社会を作っていくことが重要だと思っています。今後、このような視点からいくつかの取り組みを行う予定でいます。まずは、障害のある子どもたちが集まることができるような居場所作りを行っていきたいと考えています」
自らも地域の一員として、共生社会の実現に向け活動していきたいと意欲を燃やす鈴木先生。「障害のある子どもたちが個性を存分に発揮できる地域づくり」を、秋田で取り組んでいく決意です。
特別支援教育コース3年次の学生の声
野呂 祥子さん
特別支援学校での教育実習は、中学部への配属でした。全員男の子だったので、3週間とても賑やかで楽しかった思い出があります。子どもたちがとても可愛く、勉強を教えているときも頼ってくれたり、授業が楽しかったと言ってもらえたりしました。とてもやりがいがある職業だと感じました。
特別支援学校には症状が軽い子から重い子まで、様々な特徴を持つ子どもたちがいます。自分の秘密や悩みごとなどをつい話したくなるような、子どもたちが心を開ける親友的存在の先生になれたらいいなと思います。
木村 緒美さん
特別支援学校の高等部での実習では、附属幼稚園との交流学習の準備を行いました。高等部は特別支援学級や普通学級から移った子が多かったため、自信がないように見える子が多かったように思います。しかし、附属幼稚園の子と関わることで、彼らは次第に自信をつけていきました。
これからも、交流学習等いろいろな人との出会いをセッティングし、子どもたちが様々な経験・成長・気づきを得られる場を作っていけたらいいなと思います。そして、特別支援学校にいた先生方のように、生徒の心に寄り添える先生になりたいです。
鵜木 彩加さん
特別支援学校中学部の1年生は実態差が様々で、できることが多い子もいれば、あまりできない子もいたので苦労しました。特別支援教育では『できることにスポットライトを当て、活躍の場を作ってあげる』ことが大切です。実習したことにより、どの学校でも『できること』にスポットライトを当てることは大切なんだと強く感じました。
子どもたちが、他の人に対して思いやりに溢れた接し方ができるように、優しさだけでなく、社会で通じる強さと賢さも教えられる先生になりたいと思っています。
(取材:広報課)
※掲載内容は取材時点のものです