秋田大学研究者 足立 高弘教授

Lab Interview

回転円すいが秘める様々な可能性

水上を自由に移動するお掃除ロボット?

 皆さんは水や空気がどのように流れているか、熱がどのように伝わるか、意識したことはあるでしょうか?足立教授の専門である熱流体工学では、そんな身の回りで当たり前に起こっている物理現象のメカニズムに迫ります。

 応用研究のひとつとして「回転円すいによるミスト生成」があります。円すいの頂点を下向きにして半分ほど水中に浸し回転させると、水は円すいに沿って膜を形成しながら上昇していきます。上昇に従って水の膜は薄くなっていき、膜の形状を維持できなくなると微粒化(ミスト化)されるという現象に着目した研究です。
 ダムや湖など水の流れがなく淀んだ場所では、バクテリアが増えすぎることがあります。その結果、酸素を吸って水質を浄化してくれるバクテリアが死んでしまい、酸素がなくても生きられるバクテリアが増殖して水質を悪化させてしまいます。
 足立教授は「回転円すいによるミスト生成」が、この問題を解決できるのではないかと考えます。円すいが回転している水中では、大きな循環流や渦糸が形成され、撹拌や混合に都合が良いそうです。円すいの回転により酸素を含んだミスト(微粒化した液滴)が水中に送り込まれ撹拌されることで水質を浄化するバクテリアが再生し、水をキレイにすることができるのです。

水面を自由に移動するロボット

 足立教授はこの円すいの動きを応用し、水面を自由に移動するロボットを開発しました。
 右の写真(動画)が実物です。まず下向きの円すいを4つ組み合わせます。複数の円すいの回転方向が異なる場合、並進運動が起こります。この回転方向をプログラムで制御することで、ロボットは水面を自由に移動し、カーブを描かずに直角に曲がることも可能になるといいます。まさに水上版お掃除ロボットです。このロボットは水質浄化はもちろん、災害時の水上輸送装置、水耕栽培の養分調整など、様々な展開方法が期待できると足立教授は考えます。

抗菌性不織布の製造への展開

 また、足立教授は回転円すいのもうひとつの応用として「繊維の製造装置およびこれを用いた不織布の製造方法」についても研究しています。水より粘度の高い液体に円すいを入れて回転させると、液体はミスト状ではなく糸状に放出されることを発見し、これを集めて不織布を作り出すことに成功したのです。縁日でよく見かける、綿菓子の機械のようなイメージです。
 普通の繊維は縦糸と横糸を編んでつくられますが、不織布はその字の通り、織らずに熱や機械的・化学的作用によって接着または絡み合わせてシート状にした繊維です。身の周りだと、マスクや手芸用のフェルトが不織布にあたります。

回転円すいから液滴が飛び散る様子

 足立教授は、抗菌性マスクや車のフィルター製造での応用・実用化を試みています。抗菌作用には銀イオンが使われますが、従来の製造方法では銀粒子がノズルに詰まってしまう問題が頻出していました。また、繊維内に銀粒子が偏在することも問題となっていました。
 足立教授の新技術で開発した製造装置ではノズルやジェットを用いることはなく、銀イオンが全体に行き渡るという長所があります。円すいの下に形成される渦糸と循環流が、液体をまんべんなく撹拌するからです。また、「ツルンとした円すいを回転させる」という非常にシンプルな機構であるため、消費電力も抑えることができるといいます。この新技術を抗菌性不織布の製造に活かすことで、製造効率の上昇が期待できます。今後は回転数の制御技術の確立や条件設定、消費電力を明確にする必要があると、足立教授は実用化に向けての意欲を燃やします。
 円すいの興味深い仕組みを、ここまで深く研究したのは足立教授が初めてであり、回転円すいを用いた水質浄化システムと、繊維の製造技術は、足立教授の特許として認定を受けています。円すいという形には、我々が知らない興味深い「不思議」と「可能性」が秘められています。

航空機にもハイブリッド化の波

 日本におけるハイブリッドカーの普及率は平成29年3月末時点で約8%と言われ、保有台数は右肩上がりで伸びています。このように自動車業界では一般的になったハイブリッド化ですが、実は航空機分野でもハイブリッド化の開発研究が進んでいるといいます。基本的に、航空機はジェット燃料でエンジンを動かしていますが、最近ではバッテリー技術が進み、短距離ですが既にテスト飛行できるまで開発が進行しているといわれています。

 平成30年4月には、秋田大学・秋田県立大学・秋田県・総合重工業メーカーの株式会社IHIとの共同研究プロジェクト「ARI」(アキタ・リサーチ・イニシアチブ)が発足しました。燃料ポンプの電動化やシステムモデル評価など、研究から実証実験までを一貫して秋田県内で実施し、航空機システム電動化を目指しています。開発研究はもちろんのこと、それに携わる人材育成も目的とされています。足立研究室では、航空機に搭載される空調システムからエネルギーを回収し電気に変換する技術を確立するため、精力的に研究へ参画しています。

海の温度差や秋田ならではの自然エネルギーを活用

海洋温度差発電に用いるプレート式熱交換器

 熱移動の原理を応用した研究も足立教授の専門分野。例えば、海の温度差を利用した「海洋温度差発電」で用いる熱交換器のシステムデザインが挙げられます。
 表層の海水温度は約30℃、深さ300m程の深海では約10℃といわれています。このように同じ海の中でも深さによって水温が違うので、この約20℃の温度差を利用する発電方法を海洋温度差発電といいます。
 温かい表層海水の熱を使って、アンモニアを蒸発器で気体に変え、その蒸気でタービンを回します。今度は冷たい海洋深層水で、気体を冷やして液体に戻します。これを繰り返すことで電気が作られるという仕組みです。
 アンモニアを海水に直接混ぜ合わせて温めたり冷やしたりするのではなく、プレートを通しての熱移動、熱伝導を利用しているのです。足立教授はプレートに凹凸を設けて作動媒体の流れを乱すことで、熱交換の促進に成功。効率の良い熱交換器の実用化に向けて、貢献していきたいと考えています。

 また、秋田ならではの「冷たいエネルギー」を利用した研究もあります。雪、氷、冷気は、寒冷地ならではのエネルギーです。日中と夜間の温度差に着目して屋根の雪下ろしの簡略化を図ろうという、地域に根ざした研究です。氷が溶けたり凍ったりする時、空気は圧縮されます。その空気を少しずつ貯めておき、屋根の上に敷いたシートの小さな穴から噴射させると、屋根に積もった雪に亀裂が生じます。その結果雪を流れやすくするという仕組みです。
 「雪国で暮らす人ほど『寒いなぁ、雪はやだなぁ』というマイナスの感情が多いと思いますが、冬の寒さをエネルギーとして利用することで、秋田の暗い冬のイメージを少しでもプラスに変えていけたらと考えています」 と足立教授は話します。

物理現象応用のポテンシャルは未知数です!

 理工学部システムデザイン工学専攻創造生産工学コースは、機械工学や人工衛星開発の宇宙工学、電気電子工学、情報工学など幅広い研究をしています。足立研究室では、水や空気の流れ、熱や物質の移動についての研究を行っています。
 「目に見えない物理現象のすべてには運動方程式が存在するのです。たとえ解明できなくても、何かに応用してみましょう。解明を待っていたら応用することができません。私は“使えるものは使ってみましょう”というスタンスで、日々の研究に励んでいます。また、研究結果を上手く実用化することができれば、特許の取得も夢ではない、魅力ある研究になります」

 「水が流れる、煙が揺れる、熱が伝わる」私たちが普段気にも留めていない物理現象のすべてには法則があり、そのポテンシャルはまだまだ未知数です。回転円すいを用いた応用研究を軸に、足立教授のチャレンジングな研究は続きます。

学生の声

大学院理工学研究科 システムデザイン工学専攻 1年次
金森 潤さん

 水や空気の流れに興味があったので、足立研究室を選びました。現在は、水より粘度が高い「グリセリン」を利用した不織布生成についての研究をしています。
 地球の海と陸の面積割合は7:3で、海が7割を占めています。しかしそのほとんどは、海水や人間が飲むことができない水といわれており、飲料水はほんの数%といわれています。私たちは蛇口をひねると水が出てくるのは当たり前だと思っていますが、それができていない地域もあるのです。将来、自分の研究がそのような地域で役に立つような仕事をしたいと考えています。

(取材:広報課)
※掲載内容は取材時点のものです

大学院理工学研究科
システムデザイン工学専攻 創造生産工学コース
教授 足立 高弘 Takahiro Adachi
  • 同志社大学 工学部 機械工学科 1994年03月卒業
  • 同志社大学 工学系研究科 機械工学 博士課程 1999年03月修了
  • 秋田大学大学院理工学研究科 システムデザイン工学専攻 創造生産工学コース長
  • 秋田大学大学院理工学研究科附属ものづくり創造工学センター長
  • 足立研究室
秋田大学70周年