岩盤の強度特性評価と資源開発に必須の環境保全型掘削技術開発と活用をめざして
岩盤を対象とした工学的利用法を考える岩盤工学分野
石油、ガス、地熱、金属資源などの天然資源と呼ばれるものは、一般的に地層の中に埋蔵されています。それらを採取するためには何らかの方法で岩盤を掘削することが必要になります。このような資源開発に必要な技術として『岩盤工学』が位置づけられます。
資源開発環境コースは、研究内容ごとに6つの研究室に分かれており、木﨑准教授のいる岩盤工学研究室では、岩の力学をもととした岩盤調査、安定性解析、ウォータージェット掘削技術等を用いて環境保全型の資源開発の研究をしています。
資源開発における岩盤掘削の目的は、主に生産技術としての岩盤掘削と安全を確保するための支保技術です。岩盤掘削は資源開発のための生産技術であり、支保技術は坑道や岩盤斜面の安定性の他、岩盤構造物を安全に維持管理するための基礎技術となります。
このように岩盤の工学的利用を安全や環境に配慮しながら進めていくためには、岩盤自体の特性について正しく測定・評価するとともに、適切な設計を行っていくことが重要です。木﨑准教授の岩盤工学研究室では、様々な試験機を用いて岩盤の強度試験や評価試験を行っています。
岩石力学に関する室内試験と鉱山や砕石場におけるフィールドワーク
[写真1]
岩石供試体の強度を調査するための一軸圧縮試験
写真1は、岩盤工学におけるもっとも代表的な力学試験である一軸圧縮試験の様子を示したものです。円柱状の岩石供試体に対して縦方向から加圧する試験です。この試験によって、岩盤構造物を設計する際に必要となる岩石の強度や変形性に関する基礎データを得ることができます。
[写真2]
大型材料試験機による岩盤試験
写真2は、油圧サーボ制御式の大型材料試験機です。最大1000kN(約100t)まで荷重を加えることが可能で、大型の岩石供試体の強度試験ができる装置です。また、地下にある岩石は、岩盤自体の重みや地殻プレートの運動によって上下左右の方向から圧縮された状態にあります。
このような元々岩盤があった同じ状態を圧力容器により実験室内で模擬的に再現し、大型材料試験機と組み合わせることで、およそ地下2,000m相当までの環境における岩石強度を調べることができるものです。この試験では、試験機により加えた力によって、岩石が滑り切られるような作用を受けて破壊が発生します。これは自然界の地震における断層滑りと類似したメカニズムです。
[写真3]
岩石の長期的な変形性を調査するクリープ試験機
写真3は、荷重アームの先におもりを取付けてテコの原理により長時間一定の荷重を加えることが可能なクリープ試験機です。その場では岩石を破壊する程の荷重がかかっていなくても、一定の荷重をかけた状態で長時間に渡り押し続けることでゆっくりと変形が進んでいきます。この試験は100年後の岩石破壊を予測するのに役立ちます。
また、岩盤工学研究室では室内試験だけではなく鉱山や砕石場における現地調査、計測、湧水層調査などのフィールドワークも行っています。優秀な技術者が求められる資源開発分野では、研究室内での調査技術とともに、フィールドにおける観察力や行動力も身に着けるべき重要な能力です。
まだまだ手つかずの地球規模の資源開発
地球の半径は6,400kmありますが、人類が利用できている部分はたかだか数kmであり、ほんの地球の表面にしか過ぎないと言われています。地球の大部分はまだ手つかずの状態です。地下に眠っている資源や岩盤をこれからの人類のために有効に活用しようと考えた時、岩盤工学は将来の社会の発展のためには無くてはならない分野と言えます。
「遠い未来の話かもしれませんが、人類が地球以外の惑星に移住することを実現する場合、先ずその星にある岩盤や資源を調査し開発することで生活の場を切り開いていくことが必要になると予想しています。そのような基本的技術として岩盤工学は遠い将来に渡って興味深い分野であり続けると思います」と木﨑准教授は言います。
岩盤を効率よく掘削破砕するウォータージェット掘削の研究
木﨑准教授は先に述べた資源開発の岩盤の調査、掘削の強度特性評価の他に、ウォータージェットと呼ばれる水を使った掘削技術の研究もしています。もともと環境や流体にも関心を持っていた木﨑准教授は、環境にやさしい水を用いたウォータージェット掘削技術に興味を持ったのだそうです。
ウォータージェットとは、高圧にした水を小さい穴から噴射させた水噴流のことです。家の軒先から滴りおちる水滴が長い年月の間に硬い石に穴を穿つように、ウォータージェットは1ミリ程度の小さな穴からより高圧の水を水噴流で出すことで岩盤掘削や洗浄などに利用されています。ウォータージェットの特徴は、水のみを用いるため環境にやさしいこと、対象物と接触しないで掘削ができることや、火気を嫌う環境でも使用できること、また小回りが効くことも特徴です。掘削に利用する場合は、まっすぐ掘削するだけではなく、資源のある方向に向きを変えながら掘削する技術が利用されています。
木﨑准教授はウォータージェットの特性を生かし、効率よく掘削する研究もおこなっているそうです。
掘削技術の他に温泉スケール除去などの活用技術の取り組み
温泉水を送る配管の内部に、温泉スケール(湯の華)と呼ばれる温泉成分が付着することがあります。炭酸カルシウムやシリカなどの不溶性成分が代表的な成分です。
ウォータージェットは切断対象に硬いものと柔らかいものがあった場合は、柔らかいものだけを選択的に除去することができます。この特性を生かして鋼製配管には損傷を与えずに温泉スケールのみを除去するのです。
地中配管されている場合は掘り起こす必要も無く、洗剤などの薬品も使用しないので、温泉水に影響を与えることがありません。また、温泉井戸を止めてしまうと自噴しなくなるという場合もありますが、ウォータージェットを用いた特殊な技術を使うと自噴を止めずに内部の流れを保ったままスケールを洗浄することができるといいます。
また秋田でも道路の融雪に使われている地中熱利用システムの配管には地下水が流れていますが、長年の間に地下水に溶け込んでいるミネラル分が析出して管内の水の流れが悪くなってきます。この場合も小回りが利く特性を生かして、ボールペンサイズ程のノズルに変えることによってウォータージェットは効率よく利用されているのです。
このように環境保全型資源開発のウォータージェットはまだまだ利用先があるのでこれからも木﨑准教授の研究は社会に還元されていくことでしょう。
100年200年先を見据えた社会インフラ整備を考える
地下資源開発には岩盤掘削は必須の技術と言えます。岩盤工学は自然を相手にした総合工学分野ですから、幅広い知識を身につけることができますし、学生の個性に応じた得意なテーマを尊重した研究をすることもできます。
さらに昨今高度成長期のインフラの老朽化が問題になってきています。
「100年200年先を見据えた社会インフラ整備を考えるというのも興味が湧きますね。岩盤工学やウォータージェット技術は、インフラ整備にも関連が強い分野ですので、社会の基盤を担っていきたいという方はぜひ岩盤工学分野にも関心をもってもらいたいと思います」
木﨑准教授の研究室から巣立った卒業生は、資源開発の分野では鉱山会社、掘削会社、鉱山機械メーカーなど、土木工学の分野では、岩盤コンサルティング企業やインフラ関係の建設会社、技術系公務員に勤めているといいます。岩盤工学研究室では、資源開発を目指したいと考えている高校生の皆さんを心より歓迎しています。
(取材:広報課)
※掲載内容は取材時点のものです