秋田大学研究者 三島望教授

Lab Interview

環境にやさしいライフサイクルデザイン

製品のエコデザイン「ライフサイクルデザイン」とは?

 「ライフサイクル」は元々、生物が生まれてから死ぬまでの人生の周期を指す言葉でした。生物と同じように製品にも一生があり、企画設計→調達→生産→利用→廃棄・リサイクルという一連の過程を経て循環します。
 三島教授の専門である「ライフサイクルデザイン(LCD)」では、環境にやさしい製品やビジネスを評価し、設計段階での方法論を研究します。製品の一生に対して「経済性」「技術性」「市場性」そして「環境配慮性」を考慮したアプローチを展開しています。

 例えば、リサイクルや分解が容易な設計にする。さらにリサイクルした際に有害物質を排出しない、もしくはそのような物質を使わずに済むような設計にする。また、枯渇が危惧される稀少な金属を使用する場合は、少量で済むように設計するなど、循環型で環境にやさしい製品設計の方法論を研究しています。
 製品には様々な機能が組み込まれています。例えばスマートフォンには電話やメール、カメラ、音声認識等の数々のアプリケーションに加え、メーカーや機種によってはお財布機能付や低価格モデル等、たくさんの機能が盛り込まれています。最近ではAI(人工知能)搭載家電も注目を集めるようになりました。製品はユーザーに対してその価値を保つためにも魅力的な機能をもつ必要があります。そしてその機能は、ライフサイクルにおいて少ない環境負荷とコストで実現されなければなりません。製品にどのような機能を付加することで、高い製品価値をもつエコな製品を生み出すことができるのか。トータルパフォーマンス分析(TPA)でユーザー満足度と環境負荷・コストの最適なバランスを図ります

解体から中間処理までのリモート選別の試み

試作段階のWEBカメラを用いてのリモート選別

 三島教授がライフサイクルデザインの一環として取り組む研究のひとつに、「中間処理」の新しい方法の提案があります。従来の中間処理の一般的な方法は、手作業や機械で分解した後、それぞれ主要なパーツを分別し、リサイクル施設に送るという方法でした。三島教授は、この中間処理をWEBカメラを用いてインターネット上で行う「リモート選別」の研究を進めています。手作業だった選別をオンライン作業にすることで、労働コストの低い海外での中間処理作業が可能になります。現在はある程度破砕したものを分別するテスト段階ですが、将来的には解体から中間処理までの全工程のリモート化を目指しています。

風力発電事業オペレーション・メンテナンス

 秋田大学地方創生センター地域産業研究部門では、秋田県が産業・エネルギー戦略として掲げる「金属リサイクル」「自動車・航空機産業」「新エネルギー」「新素材・機能性材料」「医理工連携」などに対応した5つの事業を置き、秋田の産業振興や課題解決に取り組んでいます。
 三島教授はその中の「新エネルギー開発研究事業」の事業代表を務め、秋田県の地域特性を活かした風力発電や地熱発電等の再生可能エネルギーによる県内のサービス産業の創出と人材育成、地元定着を目指し、研究教育活動に日々尽力しています。
 風力発電事業での三島教授のメインストリームは、オペレーション・メンテナンス、いわゆる運用や保守管理に関する研究です。風車(最も一般的なプロペラ型)は、羽根(ブレード)に風が当たり空気の流れが発生し、風上側、風下側で風速の差が生じることによって揚力が生まれます。この揚力を利用して風車は回転すると言います。風力発電の発電量(kW)は力と風速の掛け合わせです。そのため、風力発電所のオペレーターは天候や状況に応じて風車を制御します。風が強すぎる場合は羽根の角度を調節したり(ピッチ制御)、故障や不具合の場合は修理や原因究明にあたります。

 東北地方の日本海側は風に恵まれていることから風力発電に適していると言われ、中でも強い偏西風が吹きつける秋田県には多くの風車が建設されています。日本海に沈む夕日に照らされた風車群や、山間部に並ぶ白い風車は、いまや秋田の美しい風景の一部となっています。
 しかし、冬の秋田は雪害や落雷が多いことがデメリットとされています。実際に秋田では落雷や強風が原因で風車の羽根が折れるという事例もあります。風車自体が避雷針のような働きをしてしまうため、耐雷性を保つための適切な設備を設ける必要があると言います。
 「にかほ市の仁賀保高原は秋田県の中でも早い段階で風車が設置されました。雷も多く発生する極寒の豪雪地帯ですから、冬期の修理やメンテナンスはとても過酷な作業になります。このような秋田県独特の気象条件下でのオペレーション・メンテナンスのプランニングの必要性も提案しています。また、風車はほぼ海外製のため、日本で調達できない部品の輸送や輸送負荷も考慮しなくてはなりません。あらかじめ消耗が予測できる部品交換などを効率的に行う等の対策を取っています」と、三島教授は話します。

 秋田県としても、風力発電事業におけるメンテナンス人材の育成と確保は重要とされ、力を入れているプロジェクトです。
「メンテナンスの域を広くし、オペレーション人材を育成する、さらにはその仕事を請け負う部門なり会社を育成していくことは、雇用の創出と産業振興に繋がります」と、三島教授も積極的に協力していく考えを示しています。秋田が誇る無限の資源「風」を、秋田のために活かす取り組みが進んでいます。

ライフサイクルデザインの担い手育成

秋田県立大学との共同大学院「共同ライフサイクルデザイン工学専攻」

 環境負荷の低減や循環型社会の形成が重要とされる昨今、ライフサイクルを考慮した設計や製造が特に注目されるようになってきました。この分野の教育研究のため、平成24年度から秋田大学と秋田県立大学の共同大学院「共同ライフサイクルデザイン工学専攻」がスタートしています。両大学の機械、電子・情報系分野を基盤とし、秋田大学大学院理工学研究科の資源、環境、リサイクルに関する教育研究と、秋田県立大学大学院システム科学研究科の建築、経営システムの領域が融合した科目です。
 学生はそれぞれの大学院に所属していますが、講義は両大学を行き来して受講することができるシステムです。広範囲の知識を基盤とし、現在の産業社会が直面している環境問題の解決に寄与できる人材の育成が目的です。

プロジェクトベースドラーニングの取り組み

 最近は学修者が能動的に学修に参加する「アクティブラーニング」という学習法が取り入れられていますが、その一種に「プロジェクトベースドラーニング(PBL)」という学習方法があります。これは、あるプロジェクトを実践しながら、さまざまな分野の知識を習得していく学習方法です。
 秋田大学理工学部創造生産工学コースではこの学習法を取り入れ、県内企業7社とPBLを実践しています。工場における生産ラインの効率化、特定の製造プロセスの品質向上化や、歩留まりの上昇など企業の様々な課題に対して、学生チームが問題解決に当たるというプロジェクトです。
 2年次後期に、製品を設計する初期段階の考え方を学ぶ品質工学や価値工学などの座学を経て、3年次前期には学生が企業の工場に出入りし、現場のスタッフとのディスカッションや実験を基に、課題解決の提案を行います。
「成果発表会を実施した時には、この取り組みによって若手エンジニアが従来のプロセスを再確認できたことや、新しい感覚や発想の提案に刺激を受けて非常によかったと企業から評価をいただいています」
 学生にとっても、現場で実践しながらの学習はとても魅力的で貴重な経験となっているようです。企業の担当者とのやり取りによる程良い緊張感は、学生のモチベーションの向上にもつながっています。

“研究する人生”

 「“研究する人生”は、とてもおもしろいと思います。自分にとって未知なことや、世の中でまだ知られていないことを新たに解明できた時は嬉しいですね。理工学部はそういった研究の楽しさを見出すことができる学部だと思います。ぜひ一緒に研究しましょう」
 秋田大学着任前は、国立の研究機関である機械技術研究所で工作機械の研究をしていた三島教授。教員に転職した理由は、若者との関わりに興味をもったからだと話します。実際、若い学生たちとの交流は楽しく、刺激を受けることもあると言います。今後も設計工学・価値工学を軸とした、三島教授の「研究する人生」は続いていきます。

(取材:広報課)
※掲載内容は取材時点のものです

大学院理工学研究科
共同ライフサイクルデザイン工学専攻
教授 三島 望 Nozomu Mishima